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EPISODE6 再会

「夏月、お前が研修医をしていた病院で小児科医が足りないらしい。何年か前に取り質された医療事故が尾を引いてるようだな」 「医療事故? あぁ、今裁判になってるやつか……」 「あぁ。あそこの小山小児科部長とは同期なんだ。もしなら応援に行ってやってくれないか? 今から、あの成宮とかいうスーパードクターもいるだろうしな……」 「成宮、か……」 「彼はお前と同期なはずだ。力になってやってくれないか?」 「わかった。気が進まないけど、父さんがそう言うなら1年だけ……行ってくる」 「悪いな、助かるよ」  世話になっている父親の頼みを断ることもできず、俺は助っ人兼、他病院との交流という名目で元彼のいる病院へと出向くこととなった。  正直なところ気が重くて仕方ない。  でも、もしかしたら俺みたいに未練を感じて未だに1人でいるかもしれない……そんな淡い期待も抱いてしまう。 「変わってないといいなぁ」  病院の雰囲気もスタッフ達も、千歳も……。 「では、来週からお世話になります」  小山部長に挨拶に来た帰り。  実は……千歳よりも先に、昔働いていた病院で再会した人物がいた。  そいつは、あの頃に比べたらかなり垢抜けた顔立ちをしていて、学ランではなく白衣を着ている。でも整った顔立ちは相変わらずだった。 「久しぶりだね」 「ん?」  誰もいない廊下で声をかければ、少しだけ疲れた顔をしながらそいつが顔を上げる。  あぁ、本当に変わってない。昔のまんまだ。 「あ、橘さん。おっと……わかってます? 俺は弟の……」 「わかってるよ。弟の智彰だろ? 凄いじゃないか? 本当に医者になったんだな」 「まだ、研修医ですけどね」 「1年だけ助っ人として、またお世話になることになったんだ」 「知ってます。院長発信のメールが来てましたから」  恥ずかしそうにはにかむ顔は、不覚にも可愛らしいと感じてしまう。  年上相手に敬語が使えるようになって、少しは成長したんだろうけど……よかった、お前は全然変わってない。  ……なぁ、千歳はどうしてる?  智彰に聞きたかったのに、言葉にはなってくれなくて……思わず俯いた。そんな俺を察してか智彰がニヤリと不敵笑う。  こんな男の顔もできるようになったんだ、と少しだけ驚いてしまった。 「小児科に行ったら色々あると思う。橘さんにとって辛い現実とかさ……」 「じゃあ、千歳は……」 「まぁさ、また落ち込むようなことがあったら、俺が慰めてあげるよ。あんた、泣き虫だからさ」  クスクスッと人を小馬鹿にするように笑うものだから、少しだけイラッとしてしまう。  このままで終わるものか……と悪戯心に火がついた。

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