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クリスマスに口付けを③

 クリスマスイブ当日。休みだった俺はすることもなく、ボンヤリと外を眺めいた。  今日はクリスマスイブであると同時に、元カレである千歳の誕生日。彼の誕生日に、甘い時間を過ごしたことが思い起こされる。 「よかった……あの2人の幸せそうな姿を見なくてすんで」  それだけは不幸中の幸いだった。千歳はそういったイベントに疎かったけど、もしかしたら今日はクリスマスを2人で祝っているかもしれない。そう思えば、心が痛くて仕方ない。  気を紛らわそうとクリスマスソングを部屋に流してみたけど、虚しくなって止めてしまった。  いつの間にか雪が降り始めて、まるで天使にように空を踊っている。ホワイトクリスマスなんて、恋人が喜びそうだな……情けないことに、色んなものが羨ましく見えてしまう。 「バカバカしい」  俺はスマホを取り出すと、手短にLINEを送った。 『仕事、定時に上がれそうか?』  数分後、智彰から返信が届く。少しだけ嬉しくなってしまい、慌ててスマホの画面を覗き込んだ。 『少し残業したら帰るようにします。集合場所は橘先生の家でいいですか?』 『うん。構わないよ。何か食べたいものあるか?』 『フルーツが一杯のったケーキが食いたいっす。疲れたから甘いものが食いたい』  子供みたいな文章に、口角が上がっていくのを感じる。  あいつ、フルーツが好きなのか……今まで一緒に食事をしたことなんてなかったから、智彰の好みなんて知らなかった。 『了解』  ネットでフルーツが乗ったケーキと検索すれば、有名なケーキ屋の記事を見つける。 「へぇ……これめちゃくちゃフルーツ乗ってるじゃん。あいつ喜ぶかな?」  そのケーキを見たら居てもたってもいられなくて、気付いたら車を走らせていた。  きっと疲れ切ってやってくるだろう智彰を喜ばせたやりたい……そう思うと、ドキドキしてくる。 「どうか売り切れてませんように……」  そう祈りながら、クリスマス一色に染まった街並みへ向かった。  

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