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クリスマスに口付けを②
「あー、兄貴達相変わらず仲いいっすね。誰かに見られたらどうすんだろう?」
「まぁ、こんな所にいるのも俺達くらいだからな……死角って言えば死角だから、誰かに見つかる心配はないだろうさ」
「俺達が見てるのにね?」
「な? ……ん?なんだよ、人の顔をジッと見て……」
「いや、羨ましいのかなって」
その智彰の言葉にピクッと体が反応する。それと同時に痛いところを突かれた俺は、大きな溜息をついた。
もうどうせバレてるんだし、今更かっこつける必要もないか……と腹を括ってポツリと口を開いた。
「俺、千歳と付き合ってる時、手なんて繋いでもらったことがなかったんだ」
「へぇ……」
「きっと、水瀬君みたいに守ってあげなきゃ……なんていう可愛げがなかったんだろうけどさ」
俺の告白が意外だったのか、智彰が少しだけ目を見開く。
「だから正直、羨ましかったんだ。あの2人のことが……」
「そっか」
「え? ちょっと……おい!」
「なら俺が手を繋いであげますよ」
フワリと手に温もりが触れる。俺より大きな手が冷え切った手を包み込んだ。
「めっちゃ手が冷えてんじゃん?」
そう言いながら、智彰は自分のポケットに手を突っ込む。その予想外の行動に頬が熱くなった。
人の手って、こんなにも温かいんだ……。
少しだけ、他人の温もりが恋しくなる。
「なぁ……
クリスマスくらい、恋人ごっこしようか?」
「はぁ?」
「だってお互い寂しい者同士、温めあおうよ?」
そう智彰に提案すれば露骨に嫌な顔をされてしまう。その予想通りの反応に可笑しくなってしまった。
「だって、どうせ千歳と水瀬君はラブラブなクリスマスを過ごすんだろうし……当直でもあれば、クリスマスなんて関係ないですって、見て見ぬ振りもできるけどさ」
「日勤なんですか?」
「残念。休みなんだな」
「それはそれはご愁傷さまです」
隣でニヤニヤしている智彰に、今度はイライラしてしまう。
兄貴である千歳に似ていて腹が立つこともあるけど……不思議とこの男といるのは心地がよかった。だからこそ、寂しいときには傍にいてほしいと思ってしまう。
都合がいいのはわかっているけど、それさえも包み込んでくれるような包容力が、この男にはあるのだ。
年下のくせに生意気だけど……千歳にはない大らかさを智彰は持っていた。
「いいですよ? クリスマスに恋人ごっこしましょう。何なら今から予行練習でもしますか?」
「…………」
前髪をサラッと掻き分けらて、厭らしい手付きで頬から首筋をソッとなぞられる。悔しいけど頬が火照っていくのを感じて。それを見られたくなくて、そっとその手を払いのけた。
「クリスマスだけでいいから」
「はいはい。おおせのままに」
そんな俺を見て智彰がクスクスと笑っている。
素直になりたいのに素直にならせてくれない……智彰はそんな存在だった。
「子供だと思ってたのにな……」
いつの間にか成長していた智彰の背中を、見えなくなるまで見送ってしまった。
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