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クリスマスに口付けを⑤

「智彰、もしかして泣いた?」 「泣くわけないじゃないですか」 「本当に? 目元が赤いよ?」 「え!? あ、えっと……」  熱を持った目元を頬をそっと指先で撫でてやる。やめろよって抵抗されるかと思ってたのに、 「橘さんの手、冷たくて気持ちいい」  なんて頬擦りをしてきたもんだから、俺の方が慌ててしまった。  口から飛び出そうな心臓を無理矢理押し込んで、平然を装う。やっぱり可愛い……まるで大きな犬みたいだ。 「何があったんだ? 話してみろよ」 「うん、そうだね……」  長い睫毛を伏せて、そっと智彰が俯く。そんな彼に、あの人の面影を見る。 「今日、兄貴と葵さんが喧嘩したみたいで……」 「クリスマスに喧嘩?」 「はい。それで俺のところに葵さんが来て、抱いてって言われたんです」 「抱いてって……」 「俺、葵さんが好きだから……そんなこと言われたら抱きたくなっちまう。でも、あの人は兄貴のもんだ……。でも何かあれば俺を頼ってくるんです。そんなことされると期待しちゃって、諦められなくて……」 「そっか……そんなことがあたのか」  智彰の涙の理由がわかった気がする。  水瀬君は、無意識に智彰を頼っているんだろう。決して彼を利用しようとか、騙そうとかなんて思っていない。だからこそ、智彰は諦めがつかない。  まるで、水瀬君は智彰のことが好きなように見える……前からそう感じていた。  俺は水瀬君みたいに可愛らしいタイプではない。だから、きっと俺達の関係が恋愛関係に発展することなんてないだろう。俺は、それが少しだけ寂しかった。 「なんなんだよ、この感情」   ずっと持て余している。智彰を独占したという気持ちに、もう恋愛なんてしたくないという憶病な気持ち。  それでも、俺は智彰と一緒にいたかった。 「よしよし、お兄さんが慰めてあげるよ」 「あははは。なんだよ、それ。エロいじゃん」 「智彰の為に、フルーツがいっぱい乗ったケーキ買ってきたら……一緒に食べよう」 「はい。ありがとうございます」  嫌がる素振りが無かったから、智彰を手を取ってリビングへと向かった。  目を赤くしながら微笑む智彰に、自分の姿が重なる……。  智彰、お前も辛いな……。  今日くらい、傷を舐め合おう。  なぁ、智彰。  俺は智彰のサンタクロースになりたいんだ。そしたらさ、お前が喜ぶプレゼントをあげたい。  お前が欲しいものってなんだろうな……水瀬君? 俺のわけ、ないか……。  俺は、お前に笑顔を届けたい。  だって、こんなん切なすぎるだろう。俺もお前も……。

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