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クリスマスに口付けを⑥

「わぁ、たくさん果物が乗ってる。めちゃくちゃ美味しそう! 橘さんはどれ食べたい?」 「あ、俺は……」  テーブルに置かれたケーキを見て目をキラキラと輝かせる智彰に、一歩、また一歩と近付いてみる。  俺は見かけによらず臆病だから、智彰に気持ちの変化を悟られるのが怖くて仕方ない。だけど、このまま心のブレーキを踏み続けることも、段々しんどくなってきている。  なんて、ワガママなサンタクロースなんだろう。 「俺は、苺かな」 「あ、いいね。俺も苺が食いたい」  季節外れの苺をケーキからヒョイッと摘まみ上げる智彰を、背中からギュッと抱き締めた。 「え? どうした? 橘さん……」  大きな目を更に真ん丸に見開いた智彰が俺を振り返る。  そりゃあ、びっくりするよな。いきなり兄貴の元カレに抱き締められたらさ。 「智彰、苺ちょうだい?」 「ん?」 「あーん」  甘えたように智彰の腰に絡み付きながら、口を開く。緊張から心臓がドキドキ鳴り響いて、泣きたくなった。    俺は、一体何をしたいんだろう……。 「どうしたの? 珍しく甘えん坊だね。クリスマスだから? はい、あーん」  智彰が苺を口に放り込んでくれる。季節外れの苺は甘いんだけど、少しだけ酸っぱくて……今の俺の気持ちみたいだった。 「美味しい?」 「うん。めっちゃ美味しい……」  心が痛くて仕方ないから、智彰の背中に顔を埋めた。  千歳より肩幅の広いガッチリとした背中。智彰を求めてしまうのに、彼の中に千歳を探してしまう……心がグチャグチャになって、自分を見失ってしまいそうになる。  ただ、クリスマスに一人ぼっちは寂しい……。 「もう一つちょうだい?」 「あ、うん。どうぞ」  智彰が後ろを振り向きながら、俺の口にもう一つ苺を放り込んでくれる。  そのまま、俺の両頬を手で包み込んで顔を寄せた。 「俺は橘さんも食べていいの?」 「え……どういうこ……んんッ」  話しかけた言葉を遮るかのように、智彰は俺の唇に自分の唇を重ねて、そっと口移しで苺を食べさせてくれた。  酸っぱいのに、甘い……。  苺を噛み締めれば、口の中に甘酸っぱい果実がじんわり広がって行く。 「ねぇ、苺……甘い?」 「………」  耳元で意地悪く囁かれれば、顔が苺みたいに真っ赤になっていくのを感じる。それでもコクンと素直に頷いた。  俺の体を自分の方へと向ければ、熱っぽい視線をした智彰と視線が絡み合う。その瞬間、智彰の唇が視界に飛び込んできて……トクンと心臓が高鳴った。  あ、俺……智彰とキスしたんだ……。  苺みたいに甘酸っぱい感情が、少しずつ体の中に広がって……心に降り積もった雪を溶かしていく。心が、温かい……。

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