14 / 15

クリスマスに口付けを⑦

 ケーキの上の苺をもう一つ咥えて、 「はい。もう一個、どうぞ」  と唇を突き出されれば、躊躇いながらもパクっとそれを口に含んだ。  俺がコクン、と苺を飲み込んだのを見届けた智彰に再び唇を奪われて……もうずっとしていなかったキスという物を思い出す。温かくて柔らかくて……涙が出そうになる。  どうキスを受け止めたらいいのか戸惑ったけど、体が勝手に動いてくれた。  唇を優しく啄まれて、「はぁ……」と甘い吐息を吐けば熱い舌が無遠慮に入り込んできて、口内を荒らしていく。でもそれが凄く気持ちいい。 「んぁ……はぁ……ッ」  体の力が抜けてきたから、思わず智彰にしがみついた。  あぁ、ヤバい。元カレの弟に手を出されてしまった。  酷く戸惑う自分もいるけど、仕方ないではないか。だって、目の前の男は馬鹿みたいに男前だから。 「苺って、こんなに甘酸っぱいんだな」  久し振りのキスにトロンと蕩けた顔をしていれば、智彰が強く強く抱き締めてくれる。それから耳元で甘く囁かれた。 「今日くらい恋人ごっこするんでしょう?」  心のブレーキから、足を離してもいいんだろうか。  素直に智彰を求めたい気持ちが強過ぎて、もう抑えることができそうにない。  今日だけでも、お前と傷の舐め合いをしたい。 「なぁ、智彰……」 「ん?」  恐る恐る、智彰の顔を覗き込む。  この可愛い可愛いお前を、俺の物にしたい。 「きょうだけ、心のブレーキから、足を離していいかな?」 「橘さん……」 「ずっとずっと、心にブレーキをかけてきたんだ。でも、もう……もう無理だ……」  情けないことに、涙が溢れてきてまう。それを、智彰がチュッ吸い取ってくれた。 「心のブレーキから足を離したい。俺は、智彰に甘えたい」  心のブレーキから足を離した瞬間、色んな物から解放されたような気がした。  これでようやく、素直になれたんだ。  遥か夜空を駆け巡るサンタクロースの姿が見えた気がした。 「ねぇ、橘さん」 「うん?」  智彰を見上げればいやに色気を帯びた表情で俺を見つめている。  その瞬間、ズクンと今度は心臓ではなく、下半身に血液が集中していくのを感じた。ヤバい、捕まる……そんな衝動に突き落とされる。 「ブレーキなんかから足を離して、アクセル踏めばいいじゃん」 「ち、智彰……」 「いいよ。俺をあんたにあげるから。今日くらい、好きにしていいよ」  再び唇を重ね合わされば、苺の甘酸っぱさがまだ残っていて。胸が甘く締め付けられた。 「可愛い……」  甘く囁く智彰に抱き締められれば……額に頬に首筋に、キスの雨が降ってくる。それが擽ったくて、声を上げて笑いながら身を捩らせた。 「智彰、擽ったい」 「んん?」 「でも、気持ちいい……」 「本当に可愛い」  今日だけでも智彰が自分の物になった。  俺は、泣きたいくらい幸せだ。 「体も慰めてあげましょうか?」 「は?」 「体が寂しくて寒いなら、俺が温めてあげますよ? ただ、俺は男を抱いたことがないから、色々教えてもらわなきゃだけど」 「智彰……」 「どうしますか?」  ニヤリと意地悪く笑う智彰。  くそ、こいついつの間にこんないい男になったんだよ……俺は心の中で小さく舌打ちをする。  でも俺にはわかってるんだ。お前の本心が。 「お前も水瀬君に誘惑されて戸惑ってるだけだろう? 見え見えなんだよ」 「あ、バレましたか……」 「結局俺達は傷の舐め合いしかできないんだな」  コツンと智彰の肩に顔を寄せて頬を膨らませる。こんな関係、虚しいだけかもしれない。  でも、まぁいいか……クリスマスくらい。  

ともだちにシェアしよう!