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クリスマスに口付けを⑦
ケーキの上の苺をもう一つ咥えて、
「はい。もう一個、どうぞ」
と唇を突き出されれば、躊躇いながらもパクっとそれを口に含んだ。
俺がコクン、と苺を飲み込んだのを見届けた智彰に再び唇を奪われて……もうずっとしていなかったキスという物を思い出す。温かくて柔らかくて……涙が出そうになる。
どうキスを受け止めたらいいのか戸惑ったけど、体が勝手に動いてくれた。
唇を優しく啄まれて、「はぁ……」と甘い吐息を吐けば熱い舌が無遠慮に入り込んできて、口内を荒らしていく。でもそれが凄く気持ちいい。
「んぁ……はぁ……ッ」
体の力が抜けてきたから、思わず智彰にしがみついた。
あぁ、ヤバい。元カレの弟に手を出されてしまった。
酷く戸惑う自分もいるけど、仕方ないではないか。だって、目の前の男は馬鹿みたいに男前だから。
「苺って、こんなに甘酸っぱいんだな」
久し振りのキスにトロンと蕩けた顔をしていれば、智彰が強く強く抱き締めてくれる。それから耳元で甘く囁かれた。
「今日くらい恋人ごっこするんでしょう?」
心のブレーキから、足を離してもいいんだろうか。
素直に智彰を求めたい気持ちが強過ぎて、もう抑えることができそうにない。
今日だけでも、お前と傷の舐め合いをしたい。
「なぁ、智彰……」
「ん?」
恐る恐る、智彰の顔を覗き込む。
この可愛い可愛いお前を、俺の物にしたい。
「きょうだけ、心のブレーキから、足を離していいかな?」
「橘さん……」
「ずっとずっと、心にブレーキをかけてきたんだ。でも、もう……もう無理だ……」
情けないことに、涙が溢れてきてまう。それを、智彰がチュッ吸い取ってくれた。
「心のブレーキから足を離したい。俺は、智彰に甘えたい」
心のブレーキから足を離した瞬間、色んな物から解放されたような気がした。
これでようやく、素直になれたんだ。
遥か夜空を駆け巡るサンタクロースの姿が見えた気がした。
「ねぇ、橘さん」
「うん?」
智彰を見上げればいやに色気を帯びた表情で俺を見つめている。
その瞬間、ズクンと今度は心臓ではなく、下半身に血液が集中していくのを感じた。ヤバい、捕まる……そんな衝動に突き落とされる。
「ブレーキなんかから足を離して、アクセル踏めばいいじゃん」
「ち、智彰……」
「いいよ。俺をあんたにあげるから。今日くらい、好きにしていいよ」
再び唇を重ね合わされば、苺の甘酸っぱさがまだ残っていて。胸が甘く締め付けられた。
「可愛い……」
甘く囁く智彰に抱き締められれば……額に頬に首筋に、キスの雨が降ってくる。それが擽ったくて、声を上げて笑いながら身を捩らせた。
「智彰、擽ったい」
「んん?」
「でも、気持ちいい……」
「本当に可愛い」
今日だけでも智彰が自分の物になった。
俺は、泣きたいくらい幸せだ。
「体も慰めてあげましょうか?」
「は?」
「体が寂しくて寒いなら、俺が温めてあげますよ? ただ、俺は男を抱いたことがないから、色々教えてもらわなきゃだけど」
「智彰……」
「どうしますか?」
ニヤリと意地悪く笑う智彰。
くそ、こいついつの間にこんないい男になったんだよ……俺は心の中で小さく舌打ちをする。
でも俺にはわかってるんだ。お前の本心が。
「お前も水瀬君に誘惑されて戸惑ってるだけだろう? 見え見えなんだよ」
「あ、バレましたか……」
「結局俺達は傷の舐め合いしかできないんだな」
コツンと智彰の肩に顔を寄せて頬を膨らませる。こんな関係、虚しいだけかもしれない。
でも、まぁいいか……クリスマスくらい。
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