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第15話

「久遠、忘れ物ない?」 「……スマホとモバイルバッテリーしか持ってきてない」 あんなに早く帰りたかったのに、今は惜しい。 親戚と挨拶をする両親の後ろで到着時には思わなかったことを考えていた。 睦月さんとお別れなんて寂しい。 もっと、知りたい。 話したい。 絵も、見たい。 大人は、自分達の都合ばかりを押し付けてくる。 狡い。 狡い。 「道中、気を付けてね」 「叔母さんも。 また元気な内に会いましょう」 「佳苗ちゃん、お土産。 これも持っていって」 親達は昨日と変わらず親戚同士くだらない話をしている。 挨拶、挨拶。 昨日は夕方からぐでんぐでんに酔い潰れたジジイ共も一晩寝たら復活して豪快に笑っている。 五月蝿い程に。 どういう身体してんだ。 「でも、来年は久遠の受験があるから会えても再来年かな」 「どこに行くか決めたの? 男の子なんだから県外に行っても戻ってきて跡を継ぐんでしょう」 「跡なんて気にしてないわよ。 好きにさせたいの」 「駄目だめ。 継がなきゃ」 田舎のババア特有の話に視線を外した。 本当に不躾だ。 この人じゃなくて睦月に挨拶したかった。 でも、無理か。 この老女は睦月を良くない人と決め付けている。 小さな溜め息を飲み込んだ時。 畑へと続く家の角に睦月さんが立っていた。 今すぐ歩き出しそうな足を睦月さんに止められる。 口の前に人差し指をたて、しーっと悪戯っぽく笑い、それからヒラヒラと手を振った。 そして、 『約束』 そう口が動いた。 約束。 また会える、理由。 ミンミン、ジワジワ五月蝿い蝉の声の中、俺は確かに頷いた。 アナルが、疼く。 暑いあつい、8月のある日。 睦月さんと約束をした。

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