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エピローグ
「そうして、今に至る訳よ!」
ハヤトが酔っ払っている。しかも、盛大に。まだチューハイ1本だった気がするが、酒に弱いハヤトには充分だったらしい。
「こぼれるぞ。」
「なに?ちょっと聞いてる?!」
「聞いてる、聞いてる。」
俺と付き合い始めた頃は、もうちょっと酒に強かった気がするが、本人曰く「緊張しなくなったからかなぁ」との事。嬉しいので、どんなに酔っ払っても許すことにしている。そして、ハヤトは酔っ払うと、いつも昔の話をするのだ。断片的に思い出話をする事もあれば、俺との出会いから今まで、どれ程愛しているかを力説してくる時もある。
「ハヤト。」
「なにぃ?」
「お前、この話、酔って他の人に話すなよ?」
向かいに座るハヤトは、ぷくぅと膨れて見せる。
「しねぇよ!お前の居ない飲み会ねぇだろ!ヒロが止めろ!」
「はいはい。」
確かにそうだ。俺と本格的に付き合い出してから、ハヤトが一人で飲み会に出かけた事は一度も無い。酔っ払って帰って来れば、すぐに分かる。
「…大体、大事な思い出語るような友達居ねぇし。」
そう言うと、ハヤトは机に突っ伏してしまう。『裏の街の子』だったハヤトは、人とあまり関わろうとしない。いつもどこか一線を引いている気がする。もしかしたら『男が好き』な事も関係しているのかもしれない。ハヤトの初恋は俺だったらしいし、俺がハヤトの人生を狂わせている一因なのかも知れない。そう考えると、申し訳なさよりも先に、仄暗い喜びが込み上げてくる。ハヤトには結局、俺しか居ないのだ。
「ハヤト。もう寝るぞ。」
「んー?」
立ち上がり、ハヤト側に回る。ハヤトの手からチューハイ缶を取り上げ机に置くと、椅子を引いてハヤトを横抱きにする。
「ハヤト。掴まれるか?」
「ん。ヒロぉ。」
首にしっかり掴まったのを確認して持ち上げると、そのままベッドを目指す。
「ふふっ。ヒロぉ。」
「どうした?」
「だいすきぃ。」
ゆっくりベッドに降ろすと、俺に掴まったままスヤスヤと寝息を立てている。腕を首から外してやると、「んんっ」と唸って俺の服の裾を掴んだ。
「大丈夫。どこにも行かないよ。」
「ん。」
そのまま横に寝転がって頭を抱えるようにしてやれば、静かに俺から手を離した。仕方ない。一眠りしてから片付ける事にしよう。どうせ俺の睡眠は短いんだから。
「おやすみ。俺もハヤトのこと愛してるよ。」
俺はハヤトの身体に抱きつくようにして、ハヤトを囲い込み、そっと目を閉じた。
「お前が生きててよかった。」
泣きそうな俺の声は、暗闇に溶けていった。
(終)
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