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第9話
きっとこれは罰だ。
……罰なんだ。
だから俺は。
──受け入れたんだ。
年末年始も大盛況だったデリバリーフロウは、今日も予約電話が鳴り止まない。
本日、二月十四日は恋人達の祭典バレンタインデー。クリスマスの時同様に朝から満員御礼だった。
その日の三人目の客は俺の常連さんの一人で。
いつものホテルにいつもの部屋。
マナーも守るし、物腰も柔らかで痛いことはしない人。
いつもと違ったのは契約時間が一時間長かった事くらいで。
それ以外はいつも通りの、とても優しいおじ様だった。
──はずなのに。
「リョウタくん、気持ちよくないかい?」
「……えっ」
ベッドに全裸で寝かされて俺の気持ちいいところを優しく愛撫してくれていたのに。
その人は、俺のナカを指で優しく小突きながら心配そうな顔色をこちらに向けた。
「いつもより反応が薄いなと思って」
前立腺を撫でながら問いかけられる。
「んッ…、そんなこと……」
ある。
俺の身体は今までと明らかに変わっていて。
いつもだったら大袈裟なくらい快楽を得られていたのに。
はずなのに。
……ふーやに出逢ってから。
ふーやとの味を知ってしまったから。
本当の【好き】を知ってしまったから。
俺の身体は正直で。
それ以降、ふーや以外の人との逢瀬に快感を見出せなくなってしまっていた。
「まあいいさ。今日もデリバリーフロウは大忙しだもんね。リョウタくんの気もそぞろになるのは仕方ないかな。……ちょっと寂しいけどね」
「ごめんなさい、パパ……」
「いい子だねリョウタは」
優しくキスをされた。
この客との二人称は、パパとリョウタ。近親相姦プレイがお好みらしい。
「ねえリョウタくん。お詫びといってはなんだけど、今日バレンタインでしょ?プレゼントがあるんだ。受け取ってくれないかい?今の君にはとってもお似合いなものだと思うんだ」
今の俺に似合いのもの?
「ああ、勿論予約の時に連絡済みだから。安心してね」
デリバリーフロウでは客が接客中に、嬢にプレゼントを渡す場合は前もって予約する時に電話番に伝えておかなければならないルールがある。
「ちょっと待っててね、持ってくるから」
そう言うとパパ氏は。自分のカバンから小さな液体の入った小瓶と、ハンドクリームのようなチューブに入ったものを持って、ベッドに戻ってきた。
こんなにも分かりやすく、如何にもアダルトグッズです!と判別できてしまうプレゼントもそうそうない。
多分、中身は──両方とも媚薬だろう。
「パパからのプレゼント、貰ってくれるかい?」
確かに、今の俺には似合いのものだ。
「──うん。……いいよ、パパ」
一呼吸おいてから、俺はにこやかに微笑み首を縦に振った。
飲み薬の味はそこまで悪くなく、少しドロッとしていたけれど案外飲みやすかった。
「リョウタが素直になれるお薬だよ」
ホントに素直になれたらいいのに。
ふーやとはクリスマス以降まだ逢えていない。
また、逢えないかな?……なんて。
逢えたらいいな……なんて。
淡い希望を胸に抱いて、俺は怪しい液体を全て飲み干した。
だいたいこういうアダルトグッズの真偽は、ほとんどがニセモノと相場が決まっていて。
本物であったとしても効力がさほどでも無いものというのが通例。
——のはずなのだが。
「んゃ、ぁ、あぅんッ!ソコばっかぁ…!あんっ!」
「いい子だねリョウタ。やっと素直になれたんだね。可愛いよリョウタ」
さっきまで無反応だったのに、クリーム式の媚薬が塗られたパパの指が前立腺を刺激するたび、腰が跳ね上がるようになってしまっていた。
身体が火照るように熱い。
熱い。
ヤバい、この媚薬達ホンモノだった。しかも即効性。
熱い。のに身体が痺れて。
熱い。のに独りが怖くて。
奥が、疼く。
奥が疼いて仕方ない。
────ふぅやぁ……。
「ぱ、ぱぁ……ッ…あっ」
「なんだい、リョウタ」
「奥が、奥がぁ、疼くのぉ…っ!パパの太いのでいっぱい突いてェ……!!」
唾を飲み込む音が、聞こえた。
深海さんへ。
こんな事、いきなり言われても困るよね。
勝手な想いだって分かってる。
俺にとってあなたは太陽で。
手の、届かない人で。
たまにだけど逢えた時はすごく嬉しかったし。
深海さんの。……その、体温が、心臓の音が。とても心地良かったんだ。
本気になっちゃいけない恋なんて、今までもたくさんあったけど、……あったのに。
こんなに苦しくなったのはあなたが初めてです。
俺には、ちょっとだけ眩しすぎたみたい。
──好きになって、ごめんなさい。
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