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第11話

 ふーやからの指名を断ってしまった。  それも三度も。  ふーやは何も悪くなくて。  俺が悪くて。  俺が。  俺が……。  ふーやに逢える資格を失ったから。    ──それ以降、ふーやからの指名は来なくなって。  これでいいんだ。  彼とは住む世界が違いすぎたから。  俺には。  ……彼は。眩しすぎたんだと思う。  ♪〜〜 『はい、こちらデリバリーフロウです』  今日もデリバリーフロウは大盛況だ。 『初めてのお客様ですね、当店をご指名いただき誠にありがとうございます。お名前は……タチバナさん、はい、はい。誰かお気に入りの嬢はいらっしゃいますか?』  新規さんだ。  タチバナさんだって。 『ご指名ありがとうございます。…はい、諒太君を…百八十分ですね』  俺に指名が入った。どんな人だろう?  まあ、ふーや以外だったら誰でも同じだけど。  もう、ふーや以外じゃ感じなくなっちゃったけど……。  いつかは忘れるだろうし。忘れなきゃだし。  それに。  あのカードも、──捨てちゃったし。 「諒太君、新規のお客さんからご指名だよ。名前は橘さんで、◯◯ホテルの二〇五号室で百八十分でお願いね〜」  ──二〇五号室。  あのアパート。  あの扉。  あの廊下。  あの机の上。  あの、ふーやの匂い……。  ──ふーやぁ……。 「諒太君?聞いてる??送迎車待ってるよ〜〜!先に乗ってる子もいるから、早く行ったげて」 「あっ、はい!今行きま〜す!」  慌てて、急ぎ足で仕事道具の入ったバッグを持ってジャケットを腕に通しながらブーツを履く。  店を出て階段を降りた先に停まっている黒い送迎車の引き戸を開けて後部座席に乗り込むと。 「やっほ〜〜ん」  にこやかな笑みで片手をヒラヒラさせて歓迎される。 「岩城か…」 「俺だよん、ちょっと安心した?」  同乗者は岩城だった。 「…うん」 「にゃははっ」    ドアを閉めて車が走り出す。 「俺このままハシゴ。諒太は?」 「新規のお客さんから指名された」 「ふ〜〜ん……。良い人だといいね。最近諒太元気ないからさ」 「うん。……そだね」  ついため息まじりで返事をしてしまう。 「俺これでもダチとして心配してんだかんね??」  そんな俺の顔を覗き込んでほっぺをプクーッと膨らませる。 「あっはは…、分かってるよ。いつもありがと」 「んむ。分かればよろしい」  胸を張るオーバーリアクション。 「ふふっ…」 「ほら、諒太は笑ってるのが一番可愛いんだからさ。そんなんじゃせっかくの美人な顔が台無しだよ?」  岩城と話すのは、楽しい。  多分俺のことを唯一理解してくれる人物なんだと思う。 「諒太さん、そろそろホテルに着きますよ〜」 「はぁい」  橘さん。どんな人なんだろう……。  指定されたラブホテルの前に車が到着した。  運転手のボーイが再度内容を読み上げる。 「名前は橘様、新規のお客様です。諒太さんをご指名で、二〇五号室に百八十分でお願いします」 「はい」  車の引き戸を開けて降りようとした時。 「諒太!」  岩城から呼び止められた。 「──頑張って、ね?」  少し心配そうな、慈悲深い穏やかな笑み。 「ありがと、岩城」  引き戸を閉めて、車は次の目的地へと向かっていった。  俺も、切り替えなきゃ。  大きく息をひとつはいて、◯◯ホテルのフロントへ。 「デリバリーフロウです」 「はい聞いてるよ、二〇五号室ね」 「はい、ありがとうございます」  二〇五号室のドアのロックを解除してもらう。  エレベーターに乗り、廊下を進み二〇五号室の扉の前。  ドアノブの上に、ロックが解除されているという意味の緑色のランプが付いている。もう一度ドアを閉めたら即座に再度施錠される仕組みだ。  二〇五号室のドアをコンコン、とノックする。 『はーい』  屋内の遠くから返事があった。声質から判断するに、年配の変態オヤジではなさそうで内心ホッとする。むしろ若々しい声だ。 「諒太と申します」  一瞬、間があって。 『はい。……どうぞ』  爽やかな男の声に、なぜだか懐かしさを感じてしまう。  ダメだダメだ、切り替えなきゃ!  顔を横にブンブンと振り。  意を決してドアノブを回してドアを開け、中に入る。  ガチャリと少しだけ重苦しい音を立てて、扉が閉まる。  ブーツを脱いでスリッパに履き替えて。  バスローブ姿で待っているであろう橘さんのいる広間へ誘う廊下を歩く。    歩いた先に見た人は。  とても見覚えのある人で。  いま一番逢いたくない人で。  いま一番、懺悔したい人で。 「なんで、ここに。いるの……??」 「ごめん、……嘘ついて」  慈悲深く微笑む目の前にいる人は、紛れもなくバスローブ姿のふーやだった。  目の前の光景が信じられなくて、つい後退りしてしまう。 「イワキさんに、会ったよ」  突然岩城の名前が出てきて身体がビクつく。 「なんで、岩城……?」  もしかして。    ……岩城と──?? 「これ、イワキさんから」  ふーやの右手から差し出されたのは、とても見覚えのあるもので。 「それ、捨てたはずなのに……なんで──?」  ふーやから貰った、ふーやのサイン入りトレーディングカード。 「イワキさんから預かったんだよ」 「岩城から?」 「イワキさん、もともとこのカードゲームの元ネタのゲームを知っててさ。そんでイワキさんの常連さんの一人が、このカードゲームに詳しい人で俺の事知ってたみたいで。それを頼りに俺にわざわざ会いに来てくれてさ」 「なんで……」 「リョウタさんの事、すごく心配してた。だからこそ、俺を頼ってきてくれたんだよ」 「どうしてふーやを……」  今の状況に、頭が追いつかない。  なんで?  どうして?  そんな俺に、ふーやがゆっくりと近づいてくる。  俺の足は、なぜか動けなくて。 「だめ……ふーや、来ないで」 「なんで?」 「だって、俺……もうふーやに遭う資格なんて……」 「どうして?」 「俺、汚いから……──ぁッ!?」  俺の身体が愛しい人の香りで包まれていく。  ふーやが俺を優しく抱きしめている。 「イワキさんから全部聞いたよ」 「!?」  静かに放つ言霊はとても力強くて。 「なら余計に俺なんか……!!」 「リョウタさんは綺麗だよ」 「違う……」 「違くないの。そんな頑固なとこも好きだけどさ」 「ダメだよ、俺なんか…」 「ダメじゃないし、……もう。やっっと、捕まえた。絶対に離さないんだからね」 「────……ッッ!!」  涙が、あふれてくる。  ふーや。  ふーや。  ふーやぁ……。  ダメだよ、やっぱり俺この人のこと忘れる事なんて出来ないよ。  好きがあふれて止まらない。 「リョウタさん……」  少し強めに抱きしめられる。 「ァ……ッ」  ふーやの匂いが、強くなる。 「俺、深海俊哉は。リョウタさんの事が好きです、好きなんです……」  それに呼応するように、ふーやの腕の力がより一層強くなる。  それがとても嬉しくて。  ふーやの匂いを独占してるのも嬉しくて。  涙が止まらない。   「お、俺も……ふーやのこと、忘れらんなくて。忘れなきゃなのに、なのにふーやが好きな気持ちが全然離れなくて、好きが止まんなくて。俺、おれぇ……ッん!?、ふぁ、ァ…む、ぅ…ン……っ」  俺の唇がふーやに塞がれる。    ふーやの感触。  ふーやの舌。  ふーやの吐息。  俺。  ダメだ。  俺、やっぱりこの人が──大好きだ……。    相変わらずふーやはキスが上手くて、俺は呆気なく骨抜きにされて。  離れた唇同士の間には、名残惜しそうに糸が引いていた。 「ふ…ッ、ぅやぁ……」 「リョウタさん、顔真っ赤で可愛い…」 「馬鹿ぁ……っんぅ……」  もう一度キス。  キス。  ──キス。 「ぁ……っは、ァ…」 「リョウタさんは、俺のこと……好き?」 「好きぃ、好きなの……!俺ふーやのこと。──深海さんの事が、大好き……なのぉ…」  やっと言えた。  やっと言えたと思ったら、感情が止まらなくて。 「俺も、リョウタの事。だーいすきだよ」  あ。 「名前……、俺の名前──」 「ん」 「早瀬、諒太……」 「源氏名じゃなかったんだね」 「うん…」 「俺は、深海俊哉っていうの」 「としや」 「うん」 「俊哉…」 「……諒太…」  目を見つめあって、はにかみあって。  もう一度。優しく抱きあい、キスをした。  トゥルルル……。  廊下の壁に肘をつきながらスマホを耳にあてボーイに電話をする。 『諒太さん!遅かったですね。大丈夫ですか?』  電話しないと。今日は一応仕事なんだから。  なのに── 「すみ…ませんッ…遅くなっちゃ…ァ、ッて……んぅ…ン」  上から覆い被さるように抱きついているふーやが、俺の耳にフゥッと息を吹きかけながら、身体をまさぐってくる。  電話してるのにぃ……ッ! 『諒太さん……?』  ふーやが俺の身体をまさぐるのを止めようとしない。  服の上から乳首をほじられる。 「あっ、なんでも……ッな、アン!」  ソコ、だめぇ……!! 『!?……ちょ、大丈夫で──』 『諒太〜〜お疲れ〜〜!その様子だと上手くいったぽいね?よかったぁ〜〜』 「岩、城……?」 「イワキさん?」 『あ、フカ…いや、橘さんだよね。諒太の事ヨロシクね!』 「……はい!」 『諒太タイマーでしょ?確か百八十分だよね。こっちでセットしとくからさ、あとは時間気にせずに楽しんでね〜〜』 『えっ、大輔さん!?それってどういう……』 『いいのいいの水差さないの、あとはこっちで上手くやっとくから。今日はそのまま直帰でいいからね〜。んじゃおっち〜〜!』    電話は岩城の采配により、一方的に切られた。 「諒太……諒太…、諒太ァ……」  名前を耳元で連呼されながら、服の上から身体をまさぐられ続けていて。 「や、ぁ……ッん」  乳首のあたりをコリコリされながら、お尻をムニムニと揉まれている。  ずっと触られ続けて焦らされまくって、俺の理性はもういっぱいいっぱいで。 「としやぁ…も、ぅ、やだぁ……」  ──焦らさないで。 「何が嫌なの?」 「ちゃんと、触ってくんなきゃ…ヤダぁ…」 「可愛い、俺の諒太」 「俊哉ぁ…、んふ、ぁぅ、んンむ…ぅ」  キス。  体勢を変えて抱き直されて、壁を背にしてもう一度キス。  ふーやの肩に両腕をまわして抱き寄せる。  キス。  器用にベルトを外してジーパンを割り入って、ふーやの右手指が俺のお尻を直に触る。  ふーやの指の感触が気持ちいい。 「んんン…ッ」 「すべすべだね」  少しずつ尻のくぼみに沿って指が下へ降りてくる。  ジーパンが少しずつ脚を伝っていく。  もう少し。  もう少しで。  ふーやに弄ってもらえると思うと。  俺の肛門は、期待感にあふれてすでに収縮しっぱなしで。 「……ぁ…っ」  ふーやの指が肛門に到達する。 「諒太のココ、もうヒクヒクしてる。可愛い」 「俊哉の指……早く、欲しい…」 「もう、煽るの禁止。我慢できなくなっちゃうでしょ?」  肛門のフチをふにふにと弄られる。 「我慢…しないでいいからぁ」 「だから……──あ〜〜もう、煽ったのは諒太だからね?」 「え?──……は、あぅ、ああん!!指、一気に、きたあぁ…!…はぁうッ!」  一気に三本の指が俺の中を蹂躙していく。  前立腺が的確に押し上げられる。 「きもちぃ、イィ、よぉ…ッ、アッん!俊哉ぁ……!!」  気持ち良すぎて脚がガクガクする。  振動でジーパンが揺れて床に落ちていく。 「かわいい、諒太」 「俊哉ぁ、と、しやぁ…あっん!あ、やだ、もうイッちゃう、キちゃううぅ〜〜──……!!」  弓なりにしながせて盛大に身体がビクつく。  射精はせずにナカイキしたので、まだ奥が疼く。 「イク時の諒太、すっごく綺麗」 「馬鹿ぁ…んぅ、む、ぁ…ぅ、ん…」  キス。  シャツを捲られて左乳首を優しく摘まれる。 「ね、諒太。俺もう我慢できないんだけど」  ふーやのがバスローブ越しに伝わる。  おっきくて……熱い。 「そのまま、シて……?あの時の約束、まだ守られてない、から。──お願い…」  それは初めて遭った時に交わした約束。 『ふーやぁ…』 『ん、なに?』 『そのままで……いい、から……。その…、奥まで、突いてくれる?』 『リョウタさん。コンドーム、どこ?』 『ふーやにもう逢えないと思ったから…ッ…ふーやを感じたくて…、それに、俺のこと忘れてほしくなかったから、俺のナカを生で感じて欲しかったから……ッ!俺のこと、覚えててほしくて……!』 『それは次に会った時にさ、……しよ?』  約束……という名の──束縛。 「……忘れてないよ。諒太に初めて出逢った時の事だもん。忘れられるわけないし」 「でも、この前はゴム──」 「あれはその、ごめん。俺に勇気が足りなかった」 「えっ…」 「諒太を手に入れる覚悟が足りなくて、その……逃げたんだ。壊れるくらいなら、今のままの関係性でもいいって」 「俊哉……」  ふーやが俺との事、真剣に考えててくれていただなんて。  その気持ちが嬉しくて。  嬉しくて。 「俺、俊哉の恋人になりたい……ッ!!」 「諒太さ……」 「店の掟なんていいから、俊哉の精子……俺のナカに、ちょうだい…?」  ハアァ…と大きなため息が俺の耳元をつんざいた。  嫌われた?  やだ、嫌わないで。 「俺も、諒太のナカに。俺の精子いっぱい出したい…」  ふーやの先端が、俺の穴に当てがわれる。 「……っん」  ふーや自身は、もうローションが要らないくらい先走り液でぬるぬるで。 「挿れるね?」 「うん……」  ぬぷ。 「ふあぁ…ん」  つぷ。 「んン…」  ゆっくりと時間をかけて。ふーやが俺のナカに進行してくれる。そんなふーやがとてもいじらしくて、愛らしくて。  俺を大事にしてくれてるんだって気持ちが深々と伝わってくる。  ──トン。 「あ、はぁ…ッ」  奥に到達。  俺のナカにいるふーやはずっと脈打ってて。  たったゴム一枚ないだけなのに、より一層ふーやの存在を感じる事が出来て。  ドクドクしてて。  あったかくて。  気持ちよくて。  これだけでも充分に満足してしまいそうなくらい、ふーやを感じる事が出来た。 「動くよ?」 「うん……」  こんなんで動かれたら。俺、どうなっちゃうんだろう……? 「あはあァァ……、あん!あふ、ぁア、と、しやぁ…あぅ!あうん!も、ヤァ……んん!!」  脚がガクガクして。もう言うことを聞かなくて、床に這いつくばるしかなくて。 「またクる…ッ!またイッちゃうからぁアア……!!」 「俺も、また出る……!!」  あっ、一緒にイきたい……!! 「イックぅ、イク、イクイク辰哉イクイ……ッあっはあァァ〜〜〜──……!!!!」 「諒、太……ァ!」  ビクビクン!と大きな痙攣をして、床の冷たさを感じながら息を整える。  後ろからハァハァとふーやの息遣いを感じながら、久方振りに俺の穴からふーや自身が顔を出す。  すると。まるで種壺のように俺の尻穴から、ふーやの精液がゴポォとこぼれ落ちて、俺の内股をゆっくりと伝う。 「──すっげぇ光景」 「やだ、見ないで…」  幾度目かの絶頂を迎えてお互い息も絶え絶えで。 「綺麗だよ、諒太」 「俊哉ぁ……ん、ふ…ぅ、んン…」  優しいキス。 「約束、やっと果たせた。待たせてごめんね」 「ううん。俺のナカに、ふーやのがいっぱい入ってる…、嬉しい…」 「赤ちゃん出来ちゃうかもね」 「ふふ…っ」  キス。  甘い時間がずっと続いていて。  これからもずっと続いていく。  俺は、深海俊哉さんを愛していて。  彼も、早瀬諒太を愛してくれていて。  少し時間がかかっちゃったけど。  俺たちはやっと。お互いをよりよく知り得る相思相愛になれた。  深海さん。  ふーや。  深海俊哉。  ──俊哉。  いろんなふーやがいて。  いろんな俊哉に出逢えて。  ホントのホントに幸せ者で。  ──俺は。  早瀬諒太は、深海俊哉を愛し続けます。    だから。    もう、タイマーなんて────怖くない。

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