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第5話 ここはどこ、私はだれ(4)

「心配かけてすみませんでした。このとおり謝る。だから機嫌をなおして泣き止んでくれ」 「べつに機嫌を(そこ)ねてなどおらぬっ。ただ悲しかっただけだ」 「うん、そうだな。俺が悪かった」 「あんなに必死に、そなたを助けようと頑張ったのに」 「うんうん、そうだな。そのおかげで無事、こうしてなにごともなく目を覚ますことができました」  そのまえに俺がおたくを助けたっぽいけどね? 「そなたになにかあったらどうしようと、不安で心配で、胸が張り裂ける思いだったというのに」 「そうだな。不安にさせてすまなかった。なにもかも俺が悪い」 「生涯離れぬと、ともに誓い合ったであろう?」 「うん、そうだ。生涯ともにと、約束し……たぁ?」  ん? え? なになに? 「我とそなたは、互いに欠くことのできぬ大切な半身。そなたも、我なしでは生きてはいけぬと言うたではないか」  うん~?  えっ? ちょっ……んんん~~~? 「なのに目覚めてからこちら、ひどく他人行儀で態度もそっけない。なぜそんなふうに、見ず知らずの相手に対するような接しかたをするのだ。そなた、いまさら我との関係を、なかったことにするつもりなのか?」 「ちょっ、ま……っ」  潤んだ眼差しで(にじ)り寄ってくる美人を、あたふたと押し戻した。  なんだこの展開。なんで俺、男に迫られてるんだ? 「ほらまた! なにゆえ我を邪険にするのだ」 「いや、邪険にはしてないです。してないけど、そうじゃなくて……」 「いつもならば、すぐに我を抱きしめて優しい言葉をかけてくれたであろう? 目を覚ましてからのそなたは、まるで見知らぬ者のようじゃ」  えええ? 迫られてるだけじゃなくて、能動的に抱きしめた? この美人を? 俺が?  いくら考えても心当たりがまったくない。 「え~と、その……、つかぬことを伺いますが、俺たちって、結構深い仲?」  訊いた途端に、あざやかな青い瞳が愕然と見開かれた。 「そなたまさか、我のことがわからぬというのか?」 「あ、ええと……、そのまさ、か? だったりし…て――」 「バカなっ!」  薔薇(ばら)色の口唇から、悲鳴のような声が漏れ出た。 「(たわむ)れを申すな! この我を忘れただとっ!? たとえ天が落ち、地が割れたとしても、そのようなこと、あるわけがないではないか!」 「いやいや、天が落ちて地が割れるって、そんな大袈裟な」 「大袈裟などではない! 事実だ! そのようなこと、あるはずもないのだっ」 「いや、だから、そう言われましてもですね、げんに――」 「認めぬっ!」  銀髪美人は断固言い張った。 「ほかのだれを忘れたとして、そなたに我がわからぬはずがなかろうっ。もっとよう見るのじゃ、この美しい(かお)を!」 「この、うつくしい、かお……」 「我ほどの容姿を持つ者など、ほかにいるわけがないではないか! 我を超える者はむろん、我に匹敵する者さえなっ」  どや顔で豪語されて、思わずしみじみと目の前の顔を眺めてしまった。 「え……、それ、自分で言っちゃう?」  内心でツッコむつもりが、思わずポロッと口から零れてしまった。途端、陶磁器のようにすべらかな頬が、見る間に赤く染まっていった。 「そっ、そなたが言うたのではないかっっっ!!」  恥ずかしさのあまりか、裏返った声で反論しながらポカポカと胸を叩かれた。  あ、可愛い。  まだ全然状況が呑みこめてないし、なにやらこの美人とただならぬ関係にあったようなのだが、いまの自分ではどうあっても思い出すことができない。そもそも、いくら桁外れの超絶美人でも、男である。あるんだけれども、この反応は、そういうのを抜きにしてもふつうに可愛くないか?

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