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第21話 天の摂理(2)

「大丈夫ですよ」  目と目で攻防を繰り広げていると――(はた)からは、見つめ合っているように見えただろう――、メルヴィル補佐官の声がやんわりと割って入った。 「おふたりはとりわけお力が強くていらっしゃる。うまくいかないのは、強すぎるエネルギーを馴染ませるのに時間がかかっているせいでしょう。いずれお互いの力をうまく取りこんで、循環させることがおできになりますとも」 「そうでしょうか?」 「むろんです。歴代の盟主様がたも、皆様そうして、少しずつ力を合わせてこられたのですから」  心配することはなにもないとメルヴィルは請け合った。 「譲位まで、まだしばらくの猶予があります。焦る必要はないとのセラフィア様からのお言づけでございます」  光の眷属の現盟主である。 「ご高配、いたみいります」  粛然と頭を下げる横で、リュシエルもまた、それに(なら)った。そんな俺たちを見て、メルヴィルは表情をやわらげた。 「おふたりとも、それぞれの眷属を背負っていかれるお立場。その重責ははかりしれないものがあると重々承知しております。ですがわたくしは、今日のおふたりの様子を拝見して安心いたしました」  茶褐色の瞳に茶色の頭髪。実直を絵に描いたようなその貌立(かおだ)ちは、どちらかというと地味で華やぎに欠ける。こっちの世界に来て最初に目にしたのが目の覚めるような銀髪美人で、自分の躰の持ち主も、三次元で実存するとは思えないような美丈夫だった。そのせいで、天界人というのは、押し()べて眉目秀麗なんだと思っていた。だが、目の前の補佐官にしても、この家の使用人たちにしても、いろんな容姿があって、身長も体重も含めて千差万別である。ようするに、最初に目にしたふたりが飛び抜けて人間離れしていただけだったのだ。  ついでに言うなら、現盟主である光の長、セラフィア様は女性、闇の長であるアルス様は男性と、普通に男女のカップルなのだとか。なんとなく自分たちが男同士だったこともあって、この世界では、眷属のトップに立つ人間は男なのだと思いこんでいた。それもまた、誤った認識だったようである。  というか、知れば知るほど、リュシエルとエルディラントがイレギュラーであるように思えてくる。盟主の座を引き継ぐにあたって、なにかと問題が起こっているのも、そういった変則的な部分が関係しているのではないかと思いはじめていた。 「あの、それは――今日の我々の様子に安堵されたというのは、どういうことでしょうか?」  話がまるくおさまりかけたというのに、リュシエルは不安の色を濃くして問い(ただ)す。こらこら、自分から薄氷を踏み抜くような真似はやめなさいと思ったが、まあ、気持ちはわからなくもない。本来であれば、及第点をもらった時点でよしとすべきなのだが、『エルディラント』の中身がほかでもない俺なのである。  闇の眷属はおろか、神族にさえ属さないただの人間。しかも、別の世界――所謂、異世界属性(まあ、俺から見れば、こっちが異世界なんだけども)。それでOKもらって安心なんぞできるわけもない。というか、むしろ逆に、なんで?ってことにもなるだろう。それはわかる。わかるんだけども、いまここでそれを訊いちゃうのは、墓穴掘ることにならないかなぁ?

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