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第27話 すれ違う想い(3)
「もし襲われたのが自分だったら、穏便に済ませることも考えたかもしれない。だが、狙われたのはあんただ。俺がエルディラントの立場なら、どんな手を使っても犯人を特定して、二度とあんたに手が出せないよう叩きのめすはずだ。なんなら八つ裂きにしてやる、ぐらい思っただろうよ」
「そ、そんなはずは……っ」
「惚れた相手の生命狙われて、冷静に法の裁きを、なんて言える奴は男じゃねえよ」
「そ……っ」
話しはじめて二度目の絶句。
さっきまでは怒りで興奮して頬を紅潮させていたが、いまはまったく違う意味で首筋まで赤く染めている。
いやもう、ほんと、可愛いし健気だし一途だし可愛いし可愛いし……。
思わず笑ってしまったらキッと睨まれた。
「そなた! 我をからかっているだろうっ」
「からかってないって」
「嘘だ! 我をからかって遊んでおるっ!」
ムキになって胸をポカポカと叩かれて、ふざけているわけではないのだが、さらに笑ってしまって余計に怒らせた。
なんていうか、仔猫がジャレついてくるみたいな感覚になっちゃうんだよな。そんで、こんな素直で男心をくすぐる要素をふんだんに持ち合わせているというのに、本人にまったくその自覚がないところが困りもの。
「好いていたのは我のほうで、エルディラントは次期盟主としての役割を果たしていたに過ぎぬ。とても誠実で、真摯 な人柄ゆえ」
ほらな?
やれやれと溜息が漏れた。
「そんな義理だけで、生命の危険も顧みず、あんたを守ろうとするわけないだろ?」
「だ、だからそれは……」
「どんだけ正義漢か知らないけど、いきなり襲われて咄嗟に躰が動くっていうのは、それだけエルディラントにとってもあんたが特別で、大切だったってことだよ」
「でも……」
どこまでも自信がなさそうに視線が揺らいだ。
ほんとになんだってこんな、自分が愛されてることに自信が持てずにいるんだろうな、この美人は。おそらくそれもまた、この躰の持ち主の、それまでの接しかたに問題があったせいなんだろう。だが躰を借り受けてる俺の感覚では、間違いなくエルディラントもリュシエルに惚れている。
なんとも不器用なふたりだと、じれったくなるばかりだった。お互いがお互いにとっての無二の存在であるなら、身分だのなんだの余計なことは取っ払って、己の気持ちに素直になってしまえばいいものを。
だがもしかしたら、リュシエルが狙われた原因が、そのあたりのエルディラントの一線を引く対応となにかしら関係があったのかもしれないとも思う。
うまくいかなかった力のやりとり。世界の存続に不可欠であるにもかかわらず、生命を狙われたリュシエル。これほど想い合っているのに、すれ違ったままの気持ち――いや、正確にはすれ違ってるのともちょっと違うんだが、どうにももどかしい。
やれやれともう一度溜息をついて、ガリガリと頭を掻いた。長髪に慣れていないせいで指先がひっかかり、思わず顔を蹙 める。リュシエルは途端に不安げな様子を見せた。
「あ~、違う違う。あんたに苛ついたとかじゃないから」
あわてて訂正して、あらためて口を開いた。
「まえも言ったけどさ、自分の容姿に意外と無頓着なあんたが、自分のことを綺麗だって胸を張れるくらいまで褒めたわけだろ? 本心じゃなきゃ、そこまで繰り返し褒めることもないし、聞いたかぎりでも、エルディラントはあんたのことをほんとに大事にしてた。自分ひとりが一方的に好きだったわけじゃなくて、あんたもちゃんと愛されてたって自信持っていいと思うぞ?」
「そう、だろうか?」
おそるおそる訊かれて、もちろんだと請け合った。
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