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第28話 すれ違う想い(4)

「でさ、力のやりとりもだけど、あんたらの関係がいまいち進展しなかったのは、どのへんに理由があると思う?」 「進展しなかった理由?」 「身分の差とか、相手のことを好きすぎたとかも理由のひとつではあるんだろうが、俺はその原因のおおもとに、あんたが襲われたことがあるんじゃないかと思ってる」 「わたし、が?」  青い瞳が驚愕に見開かれた。余程動揺したのだろう。一人称が「我」から「私」になっている。当人は、そのことにさえ気づいていないようだった。 「もしエルディラントがその襲撃理由と犯人に目星をつけていたのだとすれば、確実に始末をつけただろうよ。もちろん、俺と入れ替わることがなければ、という前提にはなるが」  不安げなリュシエルに、それからと付け加えた。 「襲撃理由と犯人の目星がついていないなら、おそらく的を絞るために片っ端から探りを入れたはずだ。さっき俺が、メルヴィル相手にカマかけたみたいにな」 「そなた、それではあれはっ」 「まあ、そういうことだな」  これでようやく、狙ったうえでの会話だったと理解してもらえたかと思いきや、いきなり胸倉を掴まれた。 「うわっ!?」 「貴様! なんということをしてくれたのだっ!? 向こう見ずにもほどがあるであろうっ!」 「えっ? ちょっ、ま…っ」 「そんなふうに手当たり次第に探りを入れていって、万一それと知らずに当事者と接触してしまったらどうするのだ! エルディラントでさえ、このようなことになっているのだぞ? そなたに太刀打ちできるわけがないではないかっ」 「いや、だけど」 「うるさい! 生命にかかわるような危害を加えられてしまった場合、どう責任をとるつもりなのだ!」 「あ~、うん、そうね。たしかに軽はずみだった。けどさ、たしかめるもんたしかめとかないと、動きようがなくない? 一応まだ猶予があるっつっても、できるだけ早くこの躰を本来の持ち主に返さないとまずいんじゃないの? あんたらも盟主を継承するのに、それなりの準備と調整が必要な大事な期間だろ?」 「それはそうだが……」  それでもやはり、不満の色は消えない。 「俺も正直、そんな長く、こっちの世界にはいられないんだよな。無断欠勤つづいて、会社クビになっても困るし」 「くび?」 「そうそう。俺も一応、あんたらとおなじで果たすべき義務とか役割がもとの世界であるってこと。まあ、あんたらみたいに世界を背負う、みたいな規模のデカさとは比べものにならない、ちっぽけなものだけどな。記憶がないから細かい部分ははっきりしないが、長いことサボってるとお役御免にされちまう、ぐらいのことはわかるっていうか」 「そうか……」  それはたしかに困るな、とリュシエルは呟いた。 「もちろん、あんたからも必要な情報は可能なかぎり教えてもらうし、ほかの人間に怪しまれないよう、『エルディラント』としての振る舞いにも充分気をつけるようにする。それから探りを入れる際は、あんたの目が届く範囲にしておく。俺もまだ、わからないことのほうが多いし、うっかりヘマをやらかしかねないからな。だからもし、なにかあればフォローを入れてもらえると助かる」  頼めるか?と尋ねると、リュシエルはようやく、しぶしぶといった具合に頷いた。 「わかった。だが決して無茶な真似をしてはならぬ。盟主の座を引き継ぐ我らの力がどれほど強くとも、深手を負えば生命を落とすことだってあるのだ」  その結果がいまのこの状況なのだとは思ったが、さすがに口にすることは控えた。

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