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ノンケの先輩を堕とすためのミッション11

「島田先輩のことは、第一営業部で僕のご指導をしてくださっている林さんに、お話を伺っているんです。気の利く、とてもいいヤツだって」  澱みなくスラスラ語られる新人のセリフは、まるで予め用意していたように、俺の耳には聞こえた。 「大和、こちらは俺のひとつ上の先輩で、加納さん。おまえに買い物の荷物持ちをしてほしいそうだ。手伝ってあげてくれ」 「わかりました。島田先輩は、なにか買ってきてほしいものはないですか?」  俺からなされた加納さんの紹介で、新人に向かって笑いかける彼女を、大和は見事にスルーし、なぜか買い出しを訊ねられたことで、変な声が出そうになった。 「俺はなにもないから、ほら、加納さんと打ち合わせして、買い物に行ってくれ……」  新人の塩対応のせいで、引きつり笑いに変化した加納さんを見、俺は新人の背中を押して、買い物に行くように急かす。 「僕の仕事、ちゃんと残しておいてくださいね」 「わかった、わかった。行ってらっしゃい……」  右手を振ってバイバイした後に、自分のデスクに腰かけた。 「なんでこう、朝から疲労困憊なんだよ。勘弁してくれ」  大きなため息を吐きながら、パソコンの電源をオンにしたとき。 「島田、悪い! 例のコピー機が、またご機嫌斜めになった」  今回のプロジェクトのリーダーにあたる大槌先輩が、困った顔で俺を呼ぶ。 「きっといつも以上に、こき使ったせいでしょう。確か前回も、会議前に調子が悪かったですよね」  疲れた体を引きずるように立ち上がり、コピー機のもとに向かう。 「昨日のうちにやっつけようと思ったのに、修正箇所を見つけちまってさ。島田、すぐに直せそうか?」 「それは見てみないと、なんとも言えません」 「あのっ!」  ワイシャツの袖をまくっていると、なぜか新人が傍に現れた。 「おまえ、まだいたのか。早く加納さんと、買い物に行けよ」 「コピーする書類、午後からの会議に使うんですよね?」  新人の言葉に大槌先輩はキョトンとしてから、頷いてみせた。 「ああ、第一回目の会議の担当がウチだから」 「僕のPCに書類を転送してください。第一営業部でコピーしてきます」 「大和、買い物はいいのか?」  話の腰を折るようで申し訳なかったが、加納さんに睨まれたくない一心で訊ねてしまった。 「加納先輩には、用事が済んだら行きましょうと言いました。トラブル解決が優先ですから」 「花園くん、よく午後から会議があることを知っていたね?」 「新人の僕のせいで、第二営業部の方々に迷惑をかけられません。スケジュール管理の一環で、会議の日程を掌握しました」  蛍光灯の光が新人のメガネのフレームを輝かせることで、できるビジネスマンの照明のような役割をする。 「さすがは第一営業部のホープ、恐れ入ったよ。早速だけど、コピー頼んでいいかな?」 「はい、PCが立ち上がったら手を挙げます」  俺の真向かいの席が新人のデスクになったらしく、大槌先輩とほかにも楽しげに喋りながら、コピー機の前から消えていった。 「第一営業部のホープか。俺が新人のときに、あんなふうに立ち回ることなんて、絶対にできなかっただろうな」  新人が買い物に行きたがった加納さんを黙らせつつ、コピー機の不調を察知し、代替案をさらりと提示したことに、舌を巻くしかなかった。

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