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ノンケの先輩を落とすためのミッション12

***  ノートPCの電源を立ち上げ、データを受信している画面を、ニヤケないように必死になって見つめる。 (――あのヒート先輩が大和って、僕のことを名前呼びしてくれるなんて!)  しかも部署に響き渡る声量で呼ばれたのは、すごく凄く嬉しかった。まるで僕がヒート先輩の所有物みたいな感じに聞こえてしまったのは、恋をしてるせいなんだけど。  胸元を利き手で押さえながら、振り返ってコピー機を直す先輩の背中を眺めた。テキパキ両手を動かして作業している様子は、手馴れているように目に映る。 「カッコイイな、ヒート先輩。ずっと見ていたい」  そんな僕の願いも知らずに、ノートPCがデータを全部受信してしまったので、古巣に帰らねばならない。 「大槌先輩、何部コピーしたらいいでしょうか?」 「150部頼む!」 「承知しました、第一営業部に行ってきます!」  僕が使える新人ということを知ってもらうべく、手際よく動いてみたものの、ヒート先輩の態度はあまり変わりなくて、正直なところガッカリしてしまった。 「ヒート先輩にだけ、褒められたいのにな」  肩を落としながら第一営業部の扉を開けると、教育係の林さんが怪訝な表情で僕を見る。 「花園くん、どうした?」  今日から第二営業部で仕事をはじめた僕が、ここに戻って来たことで、なにかやらかしたと心配したのかもしれない。 「第二営業部のコピー機が故障してしまったので、こちらのコピー機を使わせていただけませんか?」 「あーそういえば第二は、ここのお古のコピー機を使っていたっけ。今は誰も使ってないし、遠慮なくコピーしたらいい」  林さんの隣にある自分のデスクに着席し、ノートPCから印刷の指示を出した。 (新人として、印刷されたものを150部にまとめて、ホチキスしたほうがいいよな) 「花園くん、このほかに仕事をやらせてもらっていないのか?」  机からホチキスを取り出す僕に、林さんは声をひそめて話しかけた。 「最初は買い出しの荷物持ちを頼まれたんですが、コピー機の調子が悪いのを見て、自主的にここに来ました」  僕のセリフを聞いた途端に、林さんが苛立った様子で舌打ちする。 「買い出しの荷物持ちにコピーなんて、花園くんのやる仕事じゃないって。第二営業部のヤツは、なにを考えてるんだ」 「僕はなにもできない新人ですので」 「第一営業部は、エリート集団なんだ。わざわざこちらから出向いてるのに、花園くんを顎で使うとか、生意気にもほどがある」  差別と思える言葉を吐き捨てたことに不快感を表すべく、眉根を寄せて訊ねる。 「第一がエリートなら、第二はなんですか?」 「エリートのアシスタントみたいな感じだよ」 「エリートのアシスタント……」 (こんなふうにわけられているなんて、知らされていなかった) 「最初は一緒に仕事をしていたんだけど、足を引っ張る社員がいるせいで、仕事の効率が悪いって、今の上司の先輩たちが、上に抗議したみたいなんだ」  怪訝な顔の僕を見、林さんは流暢に説明した。 「それは互いに助け合って、仕事をすれば良かっただけの話だと思いますが」 「俺が入社した時点で別れていたからさ、どんな感じなのか正直わからないけど、助け合い以前の問題だったんじゃないかな」 「そうですか……」 「書類、まとめるの手伝おうか?」 「大丈夫です。これは僕が頼まれた仕事ですので、林さんは自分の仕事を進めてください」  不毛な会話を終わらすべく、椅子から腰をあげてコピー機に向かう。静かな音を立てて排出される印刷物を漫然と眺めながら、第二営業部の様子を思い浮かべた。  ここで使っていたお古のコピー機に、ほかにもいくつか古めかしいものがあるのを、実際に目にしている。だけど―― (第一営業部の足を引っ張るような社員がいるように、どうしても思えないんだよな)

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