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第10話

心地良い気怠さの中、目を覚ます。 腕の中で小さな寝息を発てる愛しい温もりに思わず頬が緩む。 額に張り付いた髪を掬うと唇を付けた。 もうすぐ夜が明ける。 黙って出て来たから早く帰らないとな。 でも・・・・・・・・・ 「離れたくないな。」 抱き締めて呟けば身動いで長い睫が揺れて大きな瞳が俺を捉えた。 「もう・・・朝ですか?」 「嫌、まだ夜明け前だよ。」 外に目を向ければ白み始めた空にはまだ星が輝いてた。 「会社、行くんでしょ?準備を・・・」 俺の腕から抜け出そうと体を起こした世蓮をもう一度捕まえる。 「もう少し・・・こうしてて?」 緩く抱き締めて呟けば世蓮が抱き締め返してくれた。 こんな時実感する。 世蓮は俺にとって掛け替えのない存在なんだ、と。 そして世蓮も同じ想いでいてくれるって。 それだけで大変な仕事だって何でも乗り越えられる。 「颯天?」 「何?」 「早く・・・帰ってきて下さいね。」 こんなお願いならたくさんして欲しい。 「もちろん。」 束の間の甘い一時。 あと少し満喫するためにもう一度世蓮を抱き締め直した。

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