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第16話

「どうかしましたか?王。」 僕の肩を抱いたまま車に乗り込んで無言を貫く人に聞いてみる。 何か気に障る様なことをしてしまったのかな? 不安なまま隣の無表情を見詰めてると、肩にあった手がフワリと頭を包んで引き寄せられた。 「紫苑と居ると、楽しそうだな?」 僕に触れてない腕を窓に付けて口元を覆ったまま外を向いてしまった人の小さな囁きに自然と口元が緩む。 引き寄せられて頭が乗った肩から伝わる体温が愛しい。 「貴方も居たから、かな?王。」 僕の世界は貴方を中心に回ってると思う。 こんなにも誰かの事を愛せる日が来るなんて昔の自分では想像も出来なかった。 「王・・・」 大切な人を呼べば不満そうにこちらに視線を向ける。 「その呼び方は辞めろ。」 普段なら絶対に聞けない小さな我儘に泣きそうなくらい嬉しくなる。 「伊織さん、機嫌直して?」 太腿に手を添えて微笑むと車内の空気が一瞬で穏やかになる。 闇の王と呼ばれる人の機嫌を損ねるのも直すのも僕だけだと自惚れてもいいだろうか? さっきと同じ無言の車内。 でもさっきとは違う優しい雰囲気に浸りながら心地いい揺れに身を任せた。

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