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 ディナイは意外にも涙に暮れるステュを突き離さず、黙って受け止めていた。  彼の胸は存外、温かかった。 (……なんか、くさ……!!)  魔物の死体から強烈な匂いが放たれていて、ステュはうっと顔をしかめる。ディナイの温もりで誤魔化そうと、さらに懐に鼻先を突っ込んだ。 「お前は泣いてるのか、それとも俺に甘えてるのか」  ステュは……頼もしい胸板から恐る恐る顔を上げた。 「おかしな奴だ」  三日月の形に唇を歪めたディナイと目が合うと、濡れて冷たいはずの頬がいやに熱くなった。 「あ……ごめんなさい」  涙でぐちゃぐちゃになった顔をベールで隠し、ディナイから離れて尋ねてみる。 「勇者様は、どうして、こんなド田舎へ?」 「ああ……人生何度目かの武者修行だ」 「わぁ……勇者っぽいなぁ、それ……」 「お前はこれからどうするんだ?」  森は、もう、夜になっていた。 「それね、俺が聞きたいくらいなんです。これから、どう生きてけばいいんですか? とりあえず村のみんなに復讐してもいいですか? この村、ぶっ壊してもいいですか?」 「いいんじゃないのか」 「はい? 冗談に決まってるでしょ? 俺のお母さんが生まれて育った場所なんだぞ? ひいおじいちゃんのお墓だってあるし、誰がぶっ壊すか!」 「俺と来るか」  感情がこんがらがっていたステュは、限界いっぱい目を見開かせる。長身のディナイをまじまじと見上げた。 「行く!!」 「一切迷いなしに即答か」 「だって行くとこないもん、何でもします! 荷物持ちでも! こうなったら魔物を誘き寄せる餌でも! 何でもやります!」 「へぇ」 「俺ね、ステュっていいます! 十五です! 俺のことよろしくね、勇者様!」  ベールを被ったまま、ステュは深々とお辞儀した。  迷いはなかった。ここでディナイと別れた方が、きっと一生後悔すると思った。  猛禽類を彷彿とさせる鋭い目つき。黒々とした太眉。精悍な顔立ちをしたディナイが男前の部類に入るのは確かだ。  しなやかに引き締まった長躯、鮮やかな剣捌きに身のこなし、同じ男として大いに憧れる。  険しい雰囲気で口調はやや荒っぽいが、何ていったって勇者様だ。  生まれ故郷から突き放されて孤独な少年に差し伸べられた手。優しさ以外に何がある――。 「それじゃあ、好きなだけ扱き使わせてもらうぞ、ステュ」 「今日からここがお前の仕事場だ」 「ここ? ここって……?」 「娼館だ」 (あ、あれぇ……?)  この勇者、副業でソッチ系のスカウトマンもこなしている、ダブルワーク勇者なのだろうか?

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