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寄り道にしては結構な距離を歩いてディナイが向かった先は、前にピクニックに出かけた草原であった。
昼とはまるで違う。
蝋燭はもちろん一つの明かりもなく、空気は冷たく、真っ暗闇に閉ざされていた。
「勇者様っ、ここって断崖絶壁だったよね? こんなに歩いて大丈夫? いきなり落っこちたりしない!?」
暗闇の中、足を止めたディナイは、その場で仰向けに寝転がった。
「今日、ここで野宿ですか……?」
「お前も寝ろ」
度重なる魔物討伐で闇夜に慣れ親しんでいるのだろう。ずっと足取りがしっかりしていた彼に促され、ステュもおっかなびっくり仰向けになった。
(え……!?)
遥か頭上には満天の星空が広がっていた。
今の今まで気づかなかったステュは感嘆の声を上げる。
「すごい! 星が降ってきそう!」
明るい町中では見ることが叶わない星空。娼館においても発光するバラ園があるため、天体観測には不向きだ。
肌寒さも忘れるくらいの星空に感動しつつ、ステュはディナイに話しかける。
「半年振りだね、勇者様」
「もうそんなに経ったか。道理でお前の髪が伸びてるわけだ」
またいつかディナイに結んでもらいたくて、髪を伸ばしていたステュは、ひんやりした真っ暗闇の中で頬を上気させた。
(今はスーちゃんじゃないから、きっと結んでもらえないだろう)
女装していればよかった。
でも、今のディナイが新しいリボンを持っているかどうか、わからない……。
「……夜のお出かけって、そうそうないから、ドキドキするなぁ」
「そうそうないって、何回かあるのか」
「非番だったアーリアとニタとシェラに、夜ご飯連れていってもらった」
「仲がいいな」
「海っぺたにある食堂で、魚と野菜のスープがおいしかったなぁ。そういえば、あの三人、善き魔物だったんだね。昨日知ったよ、俺。勇者様が助けてあげたんだってね」
「そんなこともあったな」
ディナイに手を差し出されたとき。
女勇者のお誘いを受けたときよりも、胸が高鳴って、弾けそうになった。
(勇者様からしたら弟扱いなんだろうけど)
彼にどう思われたいのだろう?
どうしてほしいのだろう?
名前も知らない星座がめくるめく伝説を綴る夜空の下、ステュは横目でディナイをこっそり窺ってみた。
「わ!」
すでにディナイがこちらを見ていたので、驚きの余り、つい声が出た。
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