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「つかぬことをお聞きしますが、勇者様」 「何だ」 「今日ってキスだけだよね?」 「……」 「え? それ以上のことするの? まさか最後まで突っ走ったりしないよね?」 「……」 「あ。それって大広間で時々見かけるやつだ。香油でしょ? しれっと懐から出してるけど、何に使うの?」 「……」 「何か言えーーー!」  どんどん深まっていく夜。 「う、う、う」  ステュはどうしても声が出てしまう。  再び寝台に腰掛けたディナイの膝にお座りし、ロングコートを力任せに握り締めていた。  太腿まである長さの靴下以外、下半身には何も身につけていない。  エプロンもスカートも下着も蔑ろにされていた。  砂漠の町で買ったという、体に害がない上質の香油をステュ相手にディナイは無駄遣いする。  瀟洒なつくりの小瓶から琥珀色のオイルを滴らせて、ステュのお尻に……丁寧に塗り込んでいた。 「あ」  ぬるぬるするものだから、ふとした拍子に指がナカへ挿入(はい)ってきて、ステュは背筋を引き攣らせる。 「う」  なかなか外へ出ようとせずに、浅く、そっと、出したり()れたりされると、首を竦めた。 「ふ、ぅ、ぅ、ぅ、っ」  半袖のブラウスをはだけさせたステュは、広い肩に額をグリグリと押しつける。 (変だ)  ぬるぬるしているから、あまり痛みはない。  ただ何とも言い難い違和感はあった。  抉じ開けられているのが嫌でもわかる……。 「痛くないか」  耳元で問いかけられて、ステュは、自分を覗き込んでいたディナイと怖々と視線を重ねた。 「今日……最後までするの?」 「する」 「ッ……即答したぁっ……俺に拒否権ないんですかぁっ」 「嫌なのか」 「だって……帰ってきた勇者様と、いきなり、こんなことするなんて……想像もしてなかった」 「俺は想像三昧の日々だった」  何を言い出すのかと、口をあんぐり開けたステュにディナイは平然と明かす。 「最初の内は、な。この寝台でぐうすか寝ていたお前の無防備ぶりは、呆れるのを通り越して笑えたくらいだった」 「わ……笑うなぁ……」 「それが、いつの間にか笑えなくなった」 「……そ、そんなにひどい寝相だった? 滝みたいなヨダレ流してた?」 「ムラムラするようになった」 「……」 「祭りの夜、丘の上で爆睡したお前を運ぶのも一苦労だった。至るところで恋人同士は盛ってやがるし、どれだけ遣る瀬無かったか。自己抑制の鍛錬を積むに積んだな」  後孔に長居している指が意味深に動き、身を捩じらせながらも、ステュは驚かずにはいられなかった。  寝ている自分のそばでディナイがそんな葛藤を抱いていたなんて、夢にも思わなかった。 「魔物と戦っていたとき」  うるうるとしたステュの瞳にディナイは告白を続ける。 「この片目をやられたとき、毒の影響で寝込んでいたときも、ずっと。死の淵に囚われないよう、お前のことばかり考えていた」 「勇者様……」 「ステュ。お前は俺の魂をこの器に……地上に繋ぎ止める命綱だった」  無防備だった唇に誘われるようにディナイはステュに口づけた。

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