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第6話 九月某日【地雷の話】鴫野

 先輩はさっさと制服を脱ぎ捨てる。綺麗な顔してるのに、性格はめちゃくちゃ男子だ。俺も続いて制服を脱いでいく。  下着まで脱ぎ捨てた先輩は裸になった俺をベッドに押しつけ、太腿の辺りに跨った。  先輩のあまり日焼けしていない肌が晒されている。運動部だろうか。華奢だけど程よくついた筋肉で引き締まった身体をしている。  平らな胸には、くすんだピンクの乳首が見える。  その光景だけで、また下半身に血が集まる。  先輩は慣れた手つきで俺にゴムを付けて、自分のにも付けた。 「お前の、でかいやつじゃないときつそうだな」  小分けのローションを垂らしながら、指先がしゃくり上げる肉棒を撫でる。まあ、なんとなくきつい気はするけど、こんなもんじゃないんすか。 「誰か、好きな女子のことでも考えとけよ」  急に真剣な顔をする先輩。あんた俺の話聞いてました? 「は、何言ってんすか、目の前にいるのに」  思わず言ってしまった。 「あんたが誰かしらねー先輩とやってるの見てから、あんたでしか勃たねーんですよ」  言ってしまった。  先輩は面食らったようだったけれど、すぐに不敵な笑みを浮かべる。 「は、じゃあ、よーく見とけよ、童貞」  所謂M字開脚の体勢になって、先輩は全部を俺の目の前に晒した。薄い陰毛も、形の良い綺麗な色のちんこも、全部。俺の先っちょに触れた先輩のアナルはひくひくと震えていた。しゃぶられてるみたいで、背中も腰もぞくぞくする。 「お前がオカズにしてた先輩に、食われるとこ」  俺のちんこに手を添えて、ゆっくりと、先輩は腰を落としていく。 「は、やば……」  そんな言葉しか出てこなくて、思わず笑ってしまう。いや、笑っている余裕なんてない。  先輩の中に、埋まっていく。飲み込まれていく。  ローションでぬるつくそこは、柔らかくうねって気持ちが良すぎて。正直、気を張っていないとすぐにいきそうだった。 「先輩」  縋るように先輩を呼ぶ。 「ちょっと、黙ってろ」  眉を寄せ、悩ましげな表情で、先輩は腰を落としていく。苦しげに息をする先輩の中に、俺の昂りがゆっくりと埋まっていく。 「は、ぁ」  やばい。写真、撮りたい。 「先輩、撮っていいっすか」 「は、ダメ。きっちり、その目に焼き付けとけよ」 「……っす」  そんなこと言われなくても、そのつもりだ。 「う、く」  先輩の中の、行き当たりの場所まで入った。  先輩は少し苦しそうで、それでも漏れる声は少しばかり甘い響きが含まれているような気がした。 「ふ、これで、卒業、だな」  俺を見下ろして先輩が笑う。瞼が少し落ちて、蕩けそうな笑みだった。 「っ、ふ、奥まで、きてる」  先輩はそのままのおれの胸に手をついてリズミカルに腰を上下に揺らす。  甘ったるい声を漏らしながら快感を追う姿は、見ているだけで俺を煽る。  それに合わせて、とろとろの中が締め付けてくるので堪らない。俺はよれたシーツを握るしかなかった。 「先輩、やば、い、から」 「いきたきゃ、いけよ」  先輩の口から、素気ないお許しが出た。  息を詰め、誘われるままに先輩の中に吐き出す。何度も脈打ち、熱いザーメンを注いだ。  出ているのは先輩もわかっているらしく、ゆっくりと搾り取るように腰を揺らした。 「まだ、できるよな?」  荒い呼吸を繰り返す俺を見下ろして、先輩は目を細めた。  その後は、夢みたいだった。  先輩が自分の上で腰を振る。一定のリズムで揺らして、時々腰をを円を描くように回して、見せつけるみたいにゆっくり動かして。  亀頭が、こつこつと奥にあたって、全部入ってないのに、気持ちよくて、すぐにいった。  なのに先輩はやめなくて、そのまま二回、いかされた。  それでようやく、先輩は満足したらしい。  先輩が腰を上げてずるりと俺のちんこを引き抜くと、うっすら口を開けたアナルから泡立ったローションが垂れ落ちてなんとも言えないいやらしさだった。  先輩は、そのまま脇に座り込んで後始末を始めた。  一方の俺はというと、全力疾走した後みたいに、心臓が煩く鳴っていた。全身に倦怠感が絡みついて、一ミリも動きたくなかった。そんな俺の傍らで先輩はケロッとしている。 「先輩、運動部すか」 「そ。バスケ部。もう引退したけど」  バスケ部。そりゃあ元気ですわ。  先輩はベッドの上に胡座をかいて、慣れた手つきで精液の溜まったゴムの始末をしていく。俺の分も、自分の分も。いつの間にか先輩もいったようで、先輩のゴムにも白いものが溜まっていた。先輩もいったみたいで、少し安心した。  先輩は手際が良い。こういうことに慣れてるのがわかって、ちょっと悔しい。 「鴫野、俺のセフレになれよ」  使用済みのゴムを包んだティッシュを丸めてゴミ箱に放って、ちょっとコンビニ行ってこいくらいのノリで言う。セフレって、セックスフレンドのことっすよね。セックスする友達? 俺が? 俺でいいの? 「彼氏、じゃないんすか」  念のため訊いた。そうならいいのに、という期待を込めて。 「重いだろ、そういうの」  ぽつりと、聞こえた。  そういうの気にするタイプなんすね。全然そんなことないのに。 「重くないです。責任取るって言ったじゃないすか」 「いいって、そういうの」  少しだけ、気のせいかもしれないけど、絞り出すような声。つれない。全然そういう風に聞こえないのに。 「だいたい、あんた、さっきなんであんな泣いたんですか」 「あー……」  少しだけ黙り込んで、先輩はまたぽろぽろと涙をこぼしはじめた。  また泣き出すなんて思っていなかったから、俺は慌てた。この件は地雷だな。もう触らない。絶対触らない。心に決めた。 「っせ、先輩」  先輩は膝を抱えて小さくなっていた。 「あいつ、さっき、彼女連れてきて、目が合ったんだ。俺が見つけた場所なのに、あいつ」   さっき、って、フェラ未遂の時? マジか。  先輩は鼻声になっていた。重症だと思う。それだけでよっぽど好きだったんだとわかる。  俺なんかで慰めになるとは思わないけど、怠い身体を起こして先輩の腕を掴んで引き寄せて抱きしめた。  もうだいぶエアコンが効いているのに、先輩の身体はあったかい。  先輩は腕の中で大人しくしている。猫みたいだった。 「腹減りません? 腹減ってるの、あんま良くないっすよ。俺、何か作りますから」 「やるのに、飯食ってなかった……。腹の中、綺麗にしたから」 「大変なんすね」  めちゃくちゃ純愛じゃん、と思ったのは内緒だ。  飯が食えないのは、育ち盛りの男子高校生にはだいぶしんどいと思う。それなのにこの人は、好きな奴とやるために我慢している。  こういうかわいいところ、ずるいと思う。  あいつって誰か知らんけど、こんなかわいい人振ったのか? バカか?  ちょっと頭にきて元気が出た。身体を起こすと、下着とベッドの隅に放ってあった部屋着を着た。 「飯、用意するんでちょっと待っててください」  台所に下りて、冷凍のご飯と、冷凍の牛丼の素を温めて牛丼を作る。温玉を乗せて、おまけにプリンも部屋に持っていく。  部屋では、まだ先輩はベッドの上だった。  牛丼をテーブルに置く。 「先輩、食べられます?」  蹲っていた先輩は匂いに釣られてベッドから下りてきた。裸のまま。 「先輩、服」 「いい」  先輩はよくても、俺はよくないんすよ。  そんな俺の内心などどうでもいいらしい先輩は、裸のまま俺の正面に座って、手を合わせてちゃんといただきますを言ってから黙々と牛丼を食べていく。  箸遣いも綺麗だった。お手本みたいな、綺麗な箸の持ち方で牛丼を美味しそうに平らげた。 「ご馳走様」 「レトルトですけど」 「はは、ありがとな」  薄く笑った先輩は、今日一の可愛さだった。 「先輩、プリンは」 「食わせて」  突然言われて、面食らった。今この人なんて言った?  そんな俺の内心の揺れなど知らん顔で、食わせろと言わんばかりに先輩は口を開けてみせる。 「……っす」  そうなれば、俺には拒否権はない。  プラスチックのスプーンで掬ったとろけそうな柔らかいプリンを口元に持っていくと、柔らかい唇に吸い込まれる。 「んまい」 「コンビニのやつですけど」  もう一口分、掬って口元に持っていく。先輩は雛鳥のように口を開けて、プリンに食いつく。  そうやって食べさせて、プリンはすぐなくなった。  甘いものもいけるんだなとか、甘えてくるの可愛いなとか。収穫は多かった。  プリンまで完食した先輩はごちそうさまでしたと手を合わせた。  腹が膨れたのか、表情も落ち着いたように見えた。 「飯、んまかった。じゃーな」  牛丼と、俺の手からプリンを食べて、満足したのか先輩は制服を着て帰っていった。  結局、セフレなのか恋人になれるのか、どちらなのか有耶無耶なまま、先輩は帰ってしまった。

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