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第5話 九月某日【宥めすかして】鴫野
人様のちんこを握ったまま急に泣き出した先輩を宥めすかして、なんとか身なりを整えた。
「あの、落ち着きました?」
胸の辺りで抱きしめた先輩からは、ずっと、いい匂いがしている。先輩の香水だろうか。
胸に押し付けて頭やら背中やらを撫でて、やっと落ち着いたらしい先輩は、目元を赤くして鼻を啜る。さっきまで元気だったのに、別人みたいに大人しくなってしまった。
この人を振ったセフレというのは、俺が初めて見た時に一緒にいた相手だろうか。それとも別の誰かだろうか。
どちらにせよ、この人は今どうしようもなく傷心で、自棄になって俺の童貞をを食おうとしている。
ずっと想像の中だけで姿を追っていた人が、こんなにも生々しく目の前に存在していることがまだ信じられない。
今目の前で起こっていることも、なんだか夢みたいだ。
「お前んち、どこ」
少し鼻声の先輩は拗ねたように言った。どこか幼さを感じる声色が愛おしい。
「ここから、五分くらいです」
「は、近」
「そこの、コンビニの、裏です」
「……案内、しろよ」
先輩はまだやる気みたいだった。俺の気も知らないで。
気まずい、よりも心配だった。本当なら、こんなことしてないで美味いもんでも食べてさっさと寝るとか、カラオケに行くとか、そういうことをした方がいい。絶対その方がいい。
そりゃあ、一年間オカズにし続けた先輩が童貞卒業させてくれるなら願ったり叶ったりだけど、いかんせん今はタイミングが悪い。傷心の先輩の心の隙に付け入るみたいで気は進まない。
まぁそもそも俺が写真を撮らなければこうはならなかった訳で、このことに関して、俺はもう先輩に従うしかない。先輩が気の済むように、誠心誠意尽くすしかないと思った。
結局、俺は部室に荷物を取りに行って、そのまま家に帰った。先輩を連れて。
家には誰もいない。そういうことをするなら、チャンス以外の何物でもない。仕事が忙しくて家を空けがちな両親とすでに独立した兄たちには感謝しかない。
まだ目元の赤い先輩を家に案内する。
「いまなら、誰もいないんで」
玄関のドアを開けて先輩を通す。もっと気の利いたことでも言えればよかったけど、何も思いつかなかった。
「お前、いちおー聞くけど、俺でいいの」
靴を脱ぎながら、先輩が言う。
「いいです。あの、俺の責任なんで。それより、ほんと、俺でいいんすか」
「はは、お前、面白いな」
先輩は笑った。笑う余裕が戻ってきたみたいで、少し安心した。
台所で麦茶を用意して、先輩を部屋まで案内する。二階の、一番手前の部屋だ。先輩は黙ってついてきた。
階段を登って、部屋のドアを開けて先輩を先に通す。カーテンを閉め切った薄暗い部屋は蒸し暑くて、慌ててエアコンをつけた。ふわりと涼しい風が吹き始める。ついでに扇風機もつけた。
先輩は部屋に入るなり、荷物を放り出して俺のベッドに座った。
俺は飲む気のなさそうな麦茶をローテーブルに置いて、リュックも下ろす。
「先輩、あの、名前。なんて呼んだらいいすか」
俺のことは、多分掲示板で見たんだと思う。先輩は俺の名前を知っていたけど、自己紹介もしていなかったことを思い出した。俺はまだこの先輩の名前を知らなかった。
男にしては綺麗な顔立ちの、先輩。目はぱっちりした二重、男にしては長いまつ毛。髪はアッシュブラウンのショートボブ。色素が薄めなのか、瞳の色も少し薄い。
「蓮見洸太郎。好きに呼べよ」
やっと、あの人の名前がわかった。
はすみ、こうたろう。いい名前だ。
「蓮見先輩」
「しぎの」
蓮見先輩は笑った。さっきまでの強硬さが嘘みたいな、柔らかい笑顔で、あの時の顔を思い出して心臓が跳ねた。
「仕切り直し、すんぞ」
人のベッドで我が物顔の先輩は、悪びれた様子もなく手招きする。
「こいよ」
おそるおそる近寄ると、腕を掴まれベッドに引き倒されて、身体が密着する。手慣れすぎだろ。男子高校生二人分の体重を受け止めさせられたベッドが苦しげな音を立てた。
やばい。今はまだ九月で、少なからず汗をかいている。そんな状態で、先輩とどうこうするのは気が引けた。
「ちょ、まって、シャワー、とか」
「今更気にすんなよ」
「先輩はよくても俺が気にするんすよ。10分でいいんで、待っててください」
「……わーったよ」
先輩は渋い顔をしたが、すんなり解放してくれた。
ベッドを下りてダッシュで風呂場に行って、身体を洗って部屋に戻ると、先輩はベッドに寝転がってすっかりくつろいでいた。勝手に人のマンガ読んでるし。
「お待たせしました」
「はは、本当に十分で帰ってきた」
マンガを置いて、代わりにスマートフォンの時計をちらりと見て、先輩は満足げだった。
「あの」
「来いって」
俺のベッドなのに。俺の部屋なのに。もうこの空間は先輩が支配していた。
「ほら、脱げよ」
先輩は簡単に言うが、先輩とはさっき会ったばかり。初対面の人間の前で脱げと言われてそうそう脱げるわけがなかった。もたもたしている俺に焦れたのか、先輩は身体を起こして俺の腕を掴んだ。
「もー、いいから、そのままこい」
引き倒され、またベッドが軋んだ。
シーツに押し付けられ、俺は覚悟を決めた。
先輩は手慣れた手つきで俺のベルトを外していく。下着のゴムを引っ張って、ずり下げる。
「さっきも思ったけど、お前、毛、濃いのな」
先輩が抑揚のない声で言う。
「すんません」
責めるつもりではないんだろうけど、思わず謝ってしまう。
「いいよ、おれ、濃いの好きだし」
そんな性癖をさらりと暴露をされて呆気に取られている間に、先輩は綺麗に通った鼻筋の先をなんの躊躇いもなく濃い茂みに突っ込む。
正直、それだけで十分に刺激的だった。
脳裏にはずっと、あの日の先輩のフェラ顔が焼き付いていた。それがいま、別アングルで生で拝めるのだから。
その下、うっすら兆した俺のちんこに、溶けてしまうんじゃないかと思うくらい柔らかい唇が触れて、離れる。それだけで、そこに血が集まるようだった。
そこをさらに舌でべろりと舐められる。
ざらりとぬるりと、そのどちらもあるような先輩の舌が、根元から先端までゆっくりと這い上がる。
「っ」
舐められるのも初めての感覚で、腰の辺りがむずむずする。先輩は歯を立てず唇だけでくにくにと幹を揉む。その刺激で俺の愚息はすくすくと硬く育っていく。
「っは、やば……」
楽しげな先輩の声がする。あんた、人のちんこ舐めてそんな声出さないでくださいよ。そう言いたいのをぐっと堪えた。
「お前、膨張率やばいな」
綺麗な唇が、ムードもクソもないことを言う。褒めてるつもりなんだろうか。
「でかい」
先輩の声が、やけにねっとりと鼓膜を震わせた。
まあ、好きな人にそんなこと言われて、嬉しくない奴なんていないと思う。あざす。
先輩はうっとりと、聳り立つそれを見つめた。目つきが蕩けている。頬も心なしか赤い気がする。興奮してる、んだろうか。
先輩の白い指が幹を握って上下に擦る。先からは透明な液体が溢れて止まらない。カウパーはだらしなく垂れて先輩の手を濡らしている。そのせいで、先輩の手が動くたびにいやらしい音が立つ。
簡単に血を集めて硬く反り返るそれは、緩く扱かれているだけで気持ちいい。限界はそんなに遠くなさそうだった。
あんなに恋焦がれた存在が、聳り立つ自分のそれに触れている。こんなの、興奮しない方がおかしい。
「まって、先輩」
「なんだよ」
邪魔すんなとでも言いたげな先輩は、僅かに眉を寄せた。そうは言いますけど、いきなり顔射とかしたら怒るでしょ、絶対。
「……いきそう」
「出せよ、飲んでやるから」
散々俺を弄んだ唇が笑みの形に変わる。
ちゅ、と音を立てて先輩の柔らかい唇が丸く張った亀頭に吸い付く。
溶けそうなくらい柔らかい唇に包まれて涎を塗され、腹の底から熱いものが上がってくるのを感じた。
「っ、でる」
先輩の頭を押さえつけたいのを必死に堪えて、シーツを握り、先輩の熱い口の中に射精した。何度も脈打って、幹がびくびくと揺れる。先輩の舌が裏筋をざらりと擦って、腰が震えた。舌先にぬるりと先端を撫でられて、思わず呻いた。
少しして射精が落ち着いた頃、先輩の喉がこくんと鳴った。
は? この人、俺のザーメン飲んだの?
「ん、濃いな」
濃いのは一週間くらいしていなかったせいだろう。最近ちょっと面倒臭くてしてなかった。
「飲んだんすか」
「飲んだよ」
口に出させてくれるだけで感動なのに、先輩は更に飲んでくれたらしい。
その証拠に、ということだろうか。先輩は、べ、と舌を見せる。赤い舌の上にはもう白濁は残っていなかった。そういうことするの、エロ本の中だけじゃないんすね。
「腹、壊さないんすか」
素朴な疑問を口にすると、先輩はなんてことないような口ぶりで言う。
「こっちなら大丈夫」
「は」
「あーお前、知らねーか」
先輩はニヤリと笑った。さーせん、童貞なもんで。
「ケツに出したら後始末しねーと腹壊すけど、こっちなら大丈夫なんだよ」
先輩はさっきまで俺を咥え込んでいた唇をぺろりと舐めた。
もう何をしても先輩はかわいかった。
「いい子だ。まだ萎えんなよ」
勃ち上がったままの俺のちんこをひと撫でして、先輩は身体を起こした。
「は、先輩」
まだ何かする気でいるらしい先輩を目で追う。
「フェラで終わるわけねーだろ。最後まで相手してもらうぞ」
するりとネクタイを緩めたその表情は獰猛な雄そのものなのに。纏う空気は妖しく、晒される肌は艶かしく、笑みは淫靡だった。
「お前の童貞、食ってやるって言っただろうが」
どうやらそれは、もう先輩の中では決定事項らしかった。
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