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第8話 九月某日【或る夜の話】蓮見

 芯の減ったシャーペンを静かに机に置いた。今日の分の勉強は終わり。今日もよく頑張った。ノートとテキストを閉じて背伸びをひとつする。デスクライトを消すと部屋は落ち着いた明るさになった。  ずっと伏せておいてあったスマートフォンの時計はもうすぐ日付が変わるところだった。  チャットアプリを立ち上げる。連絡先を交換したばかりの鴫野のアカウントはすぐに見つかった。 『もう寝た?』  メッセージを送信すると、すぐに既読がついて返事が来た。 『まだ起きてます』  それだけ返ってきた。  別に何か話したいわけじゃなかった。ただなんとなく、反応が見たくてメッセージを送ってみただけだった。 『そっか、おやすみ』  早く寝ろよ。そう思いながらメッセージを送る。 『おやすみなさい』  律儀に返事が返ってきた。満足してアプリを閉じる。  勢いでやった後輩、鴫野とセフレになった。単純に、体の相性がいい気がしたからだ。  別に顔は悪くないし、体も俺好みだった。何より、好意的で献身的だった。  セフレでいいと思っていたけど、鴫野は彼氏になるつもりらしい。  まあ、悪くない。悪くないと思う。  鴫野に不満があるわけじゃない。  俺の気持ちの問題だ。  絶対ハマる。そうなる自信しかない。だから、ちゃんと向き合うのが怖かった。  入れ込んで、離れたくなくなって、振られるのはもう嫌だった。  それでも、始まったばかりのやりとりを思い出して頬が緩む。少なからず、鴫野のことは気に入っていた。

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