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第3話
あれから三ヶ月。
佑里斗は羽田に追い出される形で、何も持たないまま安アパートで一人暮らしを始めた。
だがいくら安いとは言っても、月々の家賃や光熱費にお金が掛る。
ただの大学生である佑里斗は、アルバイトをしてお金を稼ぐしかないのだが、そもそもオメガを雇ってくれる会社はほとんど無い。
ようやく見つけたアルバイトは、夜間の倉庫での作業だった。
なので昼は大学に行き夜は倉庫で作業をした。
睡眠時間はたった二時間。
少しでも節約するために食費も削る。
まあ、そんな生活を送っていると体にガタが来るのは当然である。
ある日、佑里斗は大学の敷地内で倒れた。
歩いていると視界がグワンと大きく回り、それからの記憶はない。
気がつけば医務室のベッドの上で目を覚ました。
朝だったはずなのに、夕方になっている。
何があったのか思い出せず、時計と天井をぼんやり眺めていた。
「起きたか」
「……?」
突然声を掛けられ、声の聞こえた方向に顔を向ける。
そこに居たのは、同じ学科で佑里斗より二つ学年が上の──美澄 琉生 だった。
彼はとにかく綺麗な容姿をしており、また金持ちだとの噂があって、遠巻きにキャーキャーとよく騒がれている。
なぜ遠巻きかと言うと、本人は静かに過ごしたいタイプのようで、一人でいる事が多い。その上話しかけても素っ気なく返事されるので、若干怖がられている節もあった。
「お前、顔色悪すぎるぞ。寝れてないのか?」
「……ちょっと、バイトがあって……」
「はっ……学生の本分は勉強だろ。倒れるまでバイトって馬鹿じゃないのか。」
琉生の言葉にムッと顔を歪める。
どうせ、金持ちのアンタにはわかりませんよ、と。
「うるさいな……。ていうか、なんでアンタがいるの。」
「倒れたお前を、俺が運んだから。」
サラサラと揺れる金髪は、琉生にとてもよく似合っている。
佑里斗は視線を逸らして「それは、ありがとうございます……」と悔しそうに口にし、ベッドから降りようとする。
「なあ、何で番がいんのにそこまで一人で頑張ってんの。」
「! 番は居ません」
「居るだろ。噛み跡があった」
どうやら項の噛み跡を見られていたらしい。
つまり、佑里斗の性別も全てわかっていて、けれど助けてくれた。
それを知ってしまったので、佑里斗は正直に伝えることにした。
「解消したんです。」
キーンと耳鳴りがする。
心から好きで、信じていたのに、まさかこんな事になるだなんて。
俯く佑里斗に琉生は「ごめん」と謝った。
「余計な事聞いた。……一人で帰れるか?」
「……うん」
「……。やっぱ送ってく。家どこ」
彼の好意を受け取ることにして、住所を伝えた。
そうすると琉生は佑里斗の荷物を持ち、立ち上がったその体を支えるようにして、一緒に帰路に着いた。
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