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第4話

 琉生はいつも車で登校しているらしい。  助手席に座った佑里斗は、汚したりしないように小さくなっていた。 「今更だけど、俺、三年の美澄琉生。多分お前と同じ学科」 「あ……高津佑里斗です。同じ学科です。先輩の噂はよく聞くので」 「ユリトって、花? 百合って書くの?」 「えっと……こう書きます」  学生証を出して名前を見せると、琉生は「へぇ」と頷く。 「それで、噂って何?」 「先輩はイケメンで、お金持ちだって。」  佑里斗がそう言えば、琉生は自分が聞いたくせにどうでもよさそうに「ふーん」と返事をして、佑里斗がシートベルトを着けたのを確認すると早速車が動いた。  車内はお洒落な音楽が流れていて、会話をしなくても特に気まずくはなかった。  ローテンポのそれは、琉生の雰囲気によく似合っている。  暫く車は走り、目的地の佑里斗の自宅に着くと、琉生はそのアパートを見て顔をググッと顰めた。 「おい。番を解消したってことは、発情期でフェロモンが漏れるようになるんじゃないのか。」 「あ、あー……そっか。……そろそろ発情期来ちゃうな……」 「それなのに見るからにセキュリティガバガバな所に住んでるのか? 危ないだろ。」  佑里斗はパチパチと瞬きをすると、首を傾げた。 「でもお金が無いので、セキュリティのしっかりしてる所は高くて住めないです。」 「……親は」 「俺、施設育ちなので。」  特待生なので大学の学費は必要ないのだが、生活費はもちろんかかる。  だから少しでも安いところに住むしかない。 「こんな所、発情期になれば直ぐに襲われるだろ……。」  今にも何かが出そうな雰囲気だ。  琉生は心配になって佑里斗を見る。 「なんか、どうでもいいかな。そういうの。」  信じていた人に裏切られたことで、佑里斗は自暴自棄になっていた。  ずっと一緒にいた時間が全て無駄になって、思い出すと苦しくなるので、そもそも消えてしまいたいとすら思っている。 「良くないだろ」 「……疲れちゃって」  『放っておくのは危ない』  琉生はそう思って気付けば佑里斗の手を掴んでいた。 「晩飯は? 家に何か置いてある?」 「いや……」 「体調は?」 「今はなんともないです。」 「よし。じゃあ付き合え」 「え?」  一度降りた車のドアを、琉生が開ける。  座るように言われて、佑里斗は戸惑いながらも車に乗った。  少し強引な人だなとも思ったけれど、助けてもらった恩がある。  車はすぐに動きだし、キラキラした繁華街を走っていく。

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