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第5話

 車が止まると、「降りて」と言われ佑里斗はそれに従った。  戸惑いながら外に出ると、目の前にある高そうなレストランに口元をヒクヒク痙攣させる。 「先輩……ここ、どう見ても高そうなんですけど……」 「ここの料理が美味しいから連れてきた」 「……わざわざ?」 「俺が食べたいし」  琉生はなんてことなしに言うと、また佑里斗の荷物を持って体を支えながらレストランに入る。  佑里斗は『もう大丈夫なのに……』と思ったし少し恥ずかしかったのだけれど、好意を無下にするのはいけないと、ありがたくそれを受け入れた。  席に着いて店員から渡されたメニューを見る。  そしてその値段に困惑した。  一番安くても四千円を超えている。これを今払うと今月の生活費が厳しくなるのは目に見えていて、チラッと琉生を見た佑里斗。  そんな視線に気づいた琉生は、けれど表情を変えない。 「先輩、俺……これを食べると今月の生活費が……」 「俺が無理矢理連れてきたんだから金は俺が出すよ。値段は気にせず好きなの頼め」  それは有難いのだけど、と佑里斗は苦笑しながらメニューを指さした。 「……見た事ない料理名ばかりで何なのかもわからない……」 「……肉か魚か」 「お肉」  何かの診断のように、琉生に聞かれる二択の質問に答える。  琉生は「わかった」と言って手を挙げると注文してメニューを返す。  佑里斗は琉生がお金持ちだという噂は事実だったのだと知って緊張した。  なぜならテーブルマナーだとか、そういったことを学んだことがない。 「先輩……」 「何?」 「俺……マナーが、わからなくて……」 「俺と二人なんだから気にしなくていい」 「……引かないでくださいね」  真剣な顔でそう言う佑里斗に、琉生は思わずクッと笑う。 「引かないよ。」  佑里斗はようやく肩の力を抜いて、背もたれにヘナヘナと凭れかかった。  暫くして届いた料理。  佑里斗は目をキラキラさせてそれを口に運んでいく。 「わぁ……これ、本当美味しい。」 「よかった。俺のも食べるか?」 「あ、大丈夫です。美味しいから先輩が食べて」 「……遠慮すんなよ」 「これは遠慮じゃなくて、本当に美味しいから、一緒に『美味しい』を感じたいと言いますか……。」  パクパクと料理を平らげていく佑里斗。  琉生はそんな彼を見てホッとしていた。  

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