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第7話
「何で番を解消したの」
琉生の問いかけに、佑里斗は肩をピクッと震わせる。
少しすると彼は小さく息を吐き、外を見ながら小さな声を出した。
「浮気されてたんです。子供もできちゃったみたいで」
琉生は目を見開いた。
番がいて、浮気。
その思考が信じられない。
「そいつはクズだな」
「あはは……。」
乾いた佑里斗の声が、とても寂しそうに聞こえた。
「それで……不幸にするなら、二人より一人がいいって。」
「まさかそれ、黙って受け入れたの。」
「……黙っては無いです。解消するには身体に負担がかかるので、その治療費はもらいました。」
そんなの当たり前だろ。
琉生は眉間に皺を寄せ、ここにいない佑里斗の元番を心の底から軽蔑した。
「ちゃんと生活できるように生活費とか、そういうのは?」
「あ……これから子供にお金かかるだろうし、そういうのは貰ってなくて。」
自分のことを考えず、番と浮気相手の間に産まれてくる子供を優先する佑里斗に、どれだけお人好しなんだと言いたかったのだが、佑里斗が施設育ちだったことを思い出した。
これはきっと何の罪のない子供が、自分のように苦労してほしくないという佑里斗の優しさだ。
「……馬鹿め」
「馬鹿じゃないですよ。これから産まれてくる子供には幸せになってもらわなきゃ。俺は別にもう、そこまで望まないし。」
「……それやめろ」
琉生は大きな溜息を吐く。
『やめろ』と言われた本人は、けれどなんのことか分からず首を傾げるだけ。
「自分を蔑ろにするな」
「え、っと」
「自分の気持ちに嘘をつくな」
「っ……」
琉生がそう言うと、佑里斗は顔を歪めてグッと唇を噛んだ後、堪えきれなかった涙をポロポロと零し出した。
琉生は今度は我慢せずに涙を流す彼に手を伸ばし、頭をガシガシ撫でてやる。
「見てないから、気が済むまで泣け。」
「っ、ふ……」
不器用に頭を撫でる琉生の温かさが、佑里斗にとって今はなによりも嬉しかった。
そうして暫く佑里斗は泣いていたのだが、ある時から音が止み、琉生は泣き止んだのだと思ってそちらを向いた。
「……寝てる」
が、どうやら泣き疲れて車で眠ってしまったらしい。
眠ってしまった後輩をどうしたものかと、琉生はガシガシ頭を搔いた。
勝手に家に入るのは気が引けるし、なによりあのアパートに発情期間近な佑里斗を一人置いておくのは不安だ。
──連れて帰るか
琉生は自宅に向かって車を発進させた。
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