30 / 132
第30話
■
松井とカフェに入った琉生はムスッとした顔で目の前に座る彼を見る。
「お前、絶対あいつに女だとか言うなよ」
「あ、やっぱり前一緒にご飯食べてた子だよな。男だったんだなぁ」
「本人は中性的なことを気にしてるかもしれないから」
「へえ」
本当はそうではなく、中性的な顔と体格からオメガと噂され始めることを佑里斗が不安がっているので、そうならないようにしたいのだ。
「俺があの綺麗な顔だったらもっと堂々としてんのに」
「あんまり目立ちたくないらしいから」
「ふぅん? でもなんでお前と知り合いなんだよ」
「たまたま」
「たまたま? それにしては随分仲良さげだったけど」
松井は興味しかないようで、執拗く「なんで?」を繰り返してきたが、琉生はフンと無視をして料理を注文し、スマホを見た。
「でも美澄と仲良い後輩がいるのが驚きだわ。俺らともそんなに話さないのに」
「俺はマイペースに居られる相手と仲良くしたい」
「なるほど……?」
しばらくすると料理が運ばれてきて、松井が一方的に話をするのをラジオのように聞きながら、ランチをする。
「美澄ってバイトしてんの?」
「してない」
「一人暮らしだろ?」
「うん」
料理を平らげると水を飲み、フゥと小さく息を吐く。
「今度遊びに行っていい?」
「無理」
「即答かよォ」
親しくない人を家に上げたくない。
そう思ったのだが、そこで琉生の頭に『あれ?』と疑問が浮かんだ。
初めて佑里斗に会った日、話を聞いたとはいえそこまで深く知らない彼をどうして家に連れていこうと思ったのか。
眠る彼を無理矢理起こしたって良かったのに。
「……」
「どした?」
「……いや、」
出会ったばかりの儚くて今にも壊れてしまいそうなのに、一人で立とうと踏ん張っている佑里斗が頭に浮かび、続けざまに今朝の寝癖だらけの彼や、楽しそうに笑っている表情を思い出して胸がトクンと鳴った。
ともだちにシェアしよう!