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第55話

 詰め寄られて困惑していると、講義開始のチャイムが鳴った。  佑里斗は内心『助かった……』とホッとして筆記用具を取り出す。  けれど講義が終わる頃にはまた不安で落ち着けなかった。  講義前のように詰められたらどうしよう、どうやって逃げようと考えてしまって。  チャイムが鳴って佑里斗が構えていると、案の定に「なあさっきの話」と傍にやってくる友人達。 「なんで美澄先輩と暮らしてんの?」 「えっと……普通に、俺が体調悪かったのを助けてくれて、それがきっかけで仲良くなったというか……」 「それで一緒に?」 「面倒見が良い人だから」  あはは、と笑って筆記用具をバッグに入れて立ち上がる。 「じゃあ、次の講義あるから行くね」 「あ、うん」  少し急ぎ足で部屋を出た佑里斗は、ソワソワしながら次の講義室に向かう。  琉生がアルファだということは噂されているので、彼と一緒に暮らしている佑里斗はオメガで番だからなのではないかと、話が広がってしまうかもしれない。  そんなことを考え始めると嫌な事ばかりを想像してしまって、少し落ち着こうと近くのトイレに入った。 「わっ!」 「ぉ、」  けれどタイミング悪くそこで誰かとぶつかってしまい、慌てて頭を下げる。 「すみません……!」 「いや……あれ、佑里斗?」  名前を呼ばれて顔を上げると琉生が立っていて、彼の姿を見た途端、佑里斗はムギュッと唇を噛む。 「おいおい、噛むな。どうした」 「ぅ……」 「大丈夫か? 体調悪い?」 「っ、先輩……」 「ん? 何?」  柔らかい声に不安な心は揺れて視界がじんわりと涙で滲んだ。 「お、俺、性別バレちゃうかも」 「え」 「先輩と暮らしてること、バレちゃって……」  不安を吐き出すと同時に涙がポロっと零れていった。

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