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第69話

 自宅に着いてすぐ、琉生は料理をして佑里斗は風呂掃除と洗濯物の片付けをしていた。  キッチンに立つ琉生は、今日の大学でのことを思い出して深く溜息を吐く。  食堂から出て佑里斗と別れてすぐ、松井が「おいおいおい」と焦った様子で駆け寄ってきたのでわざと嫌な顔をしてやったのだが、彼は気にすることなく言葉を続けた。 「俺さっき見てたんだけど、大丈夫か?」 「……俺はな」 「いやお前はそりゃそうだろうけどさ、あの後輩の……高津君だっけ? あの子のことだよ。今一人にしてよかったのかよ」 「講義に行くって言うから……」  琉生とて一人で行かせたくはなかったけれど、本人が望むことを止められない。   「……あんな大勢の前で性別のこと話すなんて、マナーもわかんねえのかな。もう俺らも大人の仲間入りを果たしてるのにさ、恥ずかしくないんかね」  真面目にそう言う松井は、ただそう言うだけでオメガについて何かを言うことは無い。 「お前はアイツらみたいには思わないのか」 「え、オメガに対する偏見ってこと? そんなの無い無い。差別してどうするよ。何もされてないのに何かする必要はない」 「そうか」  嘘を吐いている様子も無く、存外彼は(うるさいけれど)話のわかるやつなのかもと考えを改めた。 ■ 「琉生」 「何」  盛り付けが終わった頃、佑里斗がキッチンにやってきた。  出来上がった冷麺を見て『おっ』とした表情をすると、すぐに食事の準備をしてくれる。 「次の休みさ、どこか出掛けたりする?」 「別に予定は無いけど……。どっか行きたい?」 「あ、ううん、違うくて」  テーブルの席に着いて、手を合わせる。  二人それぞれ「いただきます」と言って、箸を手に取った。 「出掛けないなら、巣ごもりしよ」 「それ割といつもじゃないか」 「違うよ。スーパーとかも行かないってこと!」 「ああ、なるほど。じゃあ明日にでも食料買い込むかぁ」  琉生は佑里斗の提案を聞いて、きっと最近多くの視線を受けて疲れてしまったのだろうと思い、家でゆっくり休ませてあげたいと拒否することなく受け入れた。

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