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第76話
講義を終えた佑里斗はすぐに琉生に連絡をして、早々に部屋を出ると廊下を歩き彼との待ち合わせ場所に向かう。
彼はもうとっくに講義を終えているらしく、ずっと待ってくれているので急いでいたのだが、突然名前を呼ばれて足を止めた。
振り返るとまた智がいて、佑里斗はぐっと眉間に皺を寄せる。
「何」
「あ、のさ……」
どこかモジモジとしている姿に段々と不信感が募る。
余計な事ばかり言うくせに、こういうときはハッキリしないところが腹立たしい。
「ちょっと急いでるんだけど」
「ぁ……いやあの、謝りたくて……」
「は?」
智からまさかそんなことを言われると思っていなかったので、呆れに似たような感情が湧く。
「謝りたい? え、あんなことをしておいて……?」
「わかってる、わかってるんだけど……」
「そんなの要らないよ。只隈達と同じになって差別したくせに」
ハッキリと彼に伝えれば、智は戸惑うように視線をさ迷わせた。
「してな──」
「してないなんて言わせないよ。何も言わなかったじゃん。俺がバカにされてる時も、見てるだけだった……!」
ぐっと拳を握る。
鼻の奥がツンとして、視界が滲んでいく。
「謝ったら許してもらえるとでも? 俺は卒業までずっと……何も悪いことしてないのに、知らない人から性別が理由で後ろ指さされるかもしれないんだよっ! 智や只隈がっ、あんなことを言うから……っ!」
心が叫んでいる。
悲鳴のように言葉をぶちまけ、話終わるとゼェゼェ肩で呼吸した。
ポロッと涙が零れ手の甲で何度も拭う。
「ゆ、ゆりと」
狼狽えている智は佑里斗の名前を呼ぶと力無く「ごめん」と言って走り去った。
佑里斗は遂に我慢できなくなって廊下の隅っこで小さくなって泣いた。
スマートフォンが震えている。
きっと来るのが遅い佑里斗を心配した琉生が電話をかけてきているのだろうけれど、今はどうしてもそれに応えられなかった。
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