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第90話

「な〜るほどねぇ。だから高津君にだけ優しいんだぁ〜!」  智の発言を二人が否定できずにいると、それを肯定とみなした松井はニマニマしながら琉生に近づき肘でツンツンと突く。  智は『また何も考えずにやっちまった!』と口を両手で押さえたけれどもう遅い。 「智……」 「……本当にごめん」 「誰にもまだ言ってなかったのにぃ……」  佑里斗はジトっとした目で彼を見る。  琉生は小さく溜息を吐いて佑里斗と同じように智に視線をやり、続いて松井に目を向けた。 「松井」 「何?」 「俺達、付き合ってる」 「え、うん。今聞いたけど?」  改めて真実を口にした琉生は、何かに納得をしたのかひとつ頷いた。 「佑里斗」 「え?」  続いて名前を呼ばれた佑里斗は、戸惑いながら琉生を見上げる。 「付き合ってるって、言えて嬉しい」 「……わぁ……」  本当に嬉しそうに微笑む彼に、佑里斗は何も言えなくなる。  ただ、ひとつ気になるのはここには佑里斗と琉生だけではなく松井と智がいること。  この琉生の綺麗な笑顔は独り占めしたい。 「美澄ってあんな風に笑えるんだな……」 「綺麗な人が笑うと可愛いんですね」  二人の感想に佑里斗はムムッとして、思わず琉生の顔を両手で隠す。 「琉生、笑わないで」 「え」  わけも分からないまま、佑里斗に言われた通り真顔になった琉生はちょっぴり寂しくなった。  けれど次の講義の時間が差し迫り教室を出ることになった時、佑里斗がコッソリと「俺も嬉しいよ」と言ってくれたので、その寂しさはすぐにきれいさっぱり消えたのであった。

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