95 / 132
第95話
「俺ね、帰ってくる場所があるから安心できるし、迎えてくれる人がいるから嬉しいんだ」
「……うん」
「自分の欲しいものとかをちゃんと自分で買いたいし、何かあった時にお金がなかったら困るし」
琉生が顔を上げて佑里斗を見る。
「……ちゃんと帰ってきて、楽しかったことも嫌だったことも話してくれる?」
「もちろん」
「特に、嫌だったことを隠したりしない?」
「……多分、しない」
「多分なら『いいよ』って言いたくない……」
フイッとそっぽを向いた彼に、佑里斗は「多分じゃない!」と慌てて声を出す。
そんな攻防を続け、折れたのは琉生だった。
「わかった」
「やった!」
そもそも琉生には佑里斗を縛る権利もない。
それをわかっていたのだが、もしもバイト先で何かがあった時に自分が傍に居ないので、守ってあげられないのが歯痒いのである。
「でもまじで、約束して」
「ん?」
「何かあったら教えて。……大学であったようなことが、バイト先で怒らないとは限らないから」
佑里斗はハッとして頷く。
彼が心配をしてくれているのも、その理由も分かっていたつもりではある。
ただそれを言葉にしてハッキリ言われると、大学でのことは琉生も佑里斗と同じくらい不安だったのではないかと思ったのだ。
「いつも心配させてごめんね」
「いや……」
「ありがとう」
琉生にギュッと抱きつき、そっと頬にキスをする。
そうすれば彼は顔を佑里斗の方に向けて、お返しのように唇同士を重ねた。
ともだちにシェアしよう!