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第四話

 クリスは十二歳になった。  代理業社に入った頃は無表情だった顔にも、今では感情が出るようになって来た。  最初にいた部屋は狭かった為、以前より大きな部屋に移動する事になった。  部屋にはスクリーンやスピーカーが沢山置いてあり、絶えずニュース等の情報が流れている。  もう授業はなくなり、代わりに少しではあるが会社の仕事を任されるようになった。  クリスは目立つ容姿をしているので、潜入調査などには使えない。  なので、やる仕事はほぼ社内での頭脳ワークである。  仕事内容は、対外政策をどうするかという事や、企業戦略をどうするべきかという事などをアドバイスする仕事だ。  クリスは仕事のない時は部屋に流れる情報を見聞きし、色々な事を記憶していく。  そして、知識を得る(ごと)に、どんどん仕事の精度が上がって行った。  ダグラスは執務室でクリスについて考えていた。  クリスの仕事は恐ろしい程、完璧だった。  依頼主がアドバイス通りにすると、望んだ以上の結果をもたらす。  頭が良すぎるのだ。  もし、クリスが本気で作戦を考えたなら、代理業社を潰す事など、息をするくらいに簡単に違いない。  クリスは諸刃の剣なのだ。 『味方でいるならば、これ程、心強い事はないが、もし敵に回ったなら……』  ダグラスはクリスを殺す事も考えたが、手元に置いておく事を選んだ。  結果、クリスは厳重に警備された一室に閉じ込められ、必要最小限の人物としか接する事が出来なくなった。  今や、クリスは、その存在自体が代理業社の最重要機密なのだ。  部屋を移動するにあたり、クリスの新しい世話係を誰にするかという話が出た時、エリオットがすかさず立候補した。  エリオットは、自分が連れて来た事でつらい目にあっている少年を少しでも身近にいて慰めたいと思ったのだ。  そして、エリオットは望み通り世話係になった。  しかし、決定した理由は、皮肉にも仕事の成績がパッとせず、任せられる仕事が余りなかったからと言うものだったが、本人は知る由もない。  エリオットが着任の挨拶に行った時、クリスは顔を見てすぐに「ありがとう」と言った。  それは、エリオットが代理業社に連れて来た事に対する感謝の言葉だった。  エリオットはそれを聞いて、流れる涙を止める事が出来なかった。  クリスは一室に閉じ込められ、そこから外に出る事も出来ない。  おまけにクリスが会社に来た当初は、酷くつらいと思われる事も沢山あった(はず)だ。 「本当にごめん」  エリオットの謝罪の言葉をクリスは、不思議そうに聞いていた。  嫌な事もない訳ではなかったが、それを含めてもクリスにとって、ここの暮らしはとても居心地の良い物だった。  食事は三度必ず出る。  誰かの世話をする必要もない。  不本意な性行為を強要される事もない。  クリスにとってここは、今まで得る事の出来なかった安心出来る自分の居場所なのだ。  エリオットが退室して一人なると、クリスはまた流れる情報に意識を集中し始めた。  そうしていれば、クリスは何も考えずにいられる。  クリスは何か音が流れていないと、闇に引き込まれそうで、静けさがとてつもなく怖かった。  眠くなるまで流れる情報に集中し、いつも照明も機材も全部つけたまま寝る。  それが、クリスには心地よかった。

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