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第13話

「こんにちはぁ。りっちゃん、遊ぼ!」 「あっ、さよちゃん!ちょっと待ってて!」 日陰に少し残っていた雪もすっかり溶けた春の日、取ってきた山菜を洗うのを手伝っていたりつの元へ、山の麓の里に住むさよちゃんが遊びに来た。 「さよちゃん、一人で来たのか?昼間でも山は危ないから、遊ぶならりつを行かせるのに」 俺は山菜を選り分けていた手を止めて、さよちゃんに笑いかける。 さよちゃんは俺の傍に来ると、くりっとした大きな目を細めた。 「大丈夫よ。ゆきさんが山道の周りの木を切ってくれてるから明るいし。それに、危ない時はりっちゃんが守ってくれるし!」 「りつが?」 「そうだよ!さよちゃんが危なくなったら、僕がすぐに駆けつけるんだ」 いつの間にか手を拭いて、りつが俺の隣で胸を張っている。 そのとても頼もしい様子に、俺の顔が自然と緩んだ。 「そうか。りつはお姫様を守る立派な武士だな。ではりつ殿、必ず姫を守ってくだされよ」 「うんっ…あ、コホン…ッ。わかっておる」 「ふっ…」 「かわいらしい武士だ」と呟いて、俺から離れて遊び始めた二人を見やる。 こうやって見ると、りつは、普通の男の子だ。 少し人間離れした綺麗な顔をしているが、さよちゃんと笑い合ってる姿は、とても鬼には見えない。 あの老人に忠告されてから注意深く様子を伺って、角が生えてくるのかと毎日頭を触ったりもした。だけど全くそんなことも無く、ただただ素直な良い子に育った。 ーーあの老人の勘が外れていたか…。 「ゆきはるっ」 ぼんやりと考え事をしていると、りつの高い声が聞こえた。 俺は顔をりつに向けて「どうした?」と聞く。 りつは可愛らしく首を少し傾けて、俺を見上げた。 「さよちゃんが、来る途中に綺麗な花が咲いてる所を見つけたんだって!見てきてもいい?」 「いいけど、ここから遠いのか?」 俺は、りつの頭を撫でながら目を細める。 「ううん。ちょっと下った所だって」 「そうか。気をつけて行くんだぞ。何かあったら笛を鳴らせ。すぐに駆けつける」 「うんっ。わかった!」 りつは、首にかけてある紐を引っ張って、紐の先に(くく)りつけてある小さな笛を見せて笑った。 俺が、細い竹から作った笛だ。 りつの護身用に持たせてある。 この山は比較的安全な所なのだが、数年に一度の割合で盗賊が出ることがある。 りつは、女の子と見紛うくらいに綺麗な顔をしているから、もしも不審な輩に出会ったら絶対に(さら)われてしまう。 俺が必ず守るつもりだが、用心の為に持たせたのだ。

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