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第14話

洗った薬草を籠に並べて、朝早くから洗って干していた着物と下履きを取り込んで畳む。 土間に降りて、(かめ)の中の水を柄杓にすくって飲み、大きく伸びをする。 「腰が痛いな…」 薬草を洗うのに屈んでいたから腰が痛い。 見た目は若くともやはり歳を取ったな…と苦笑して、はたと気づく。 「遅くないか?」 りつとさよちゃんが、戻って来ない。 花を見に行くだけなら、もう戻って来てもいいはずだ。 もしや、何時ぞやみたいに道に迷った人を案内してるのだろうか。りつは優しいから。 そう思って心配になった俺は、二人を(さが)そうと家を出て山道に入った。 少し下った所で、「ゆきさん!」と叫びながらさよちゃんが前から走って来た。 俺に突進して来たさよちゃんを抱きとめて「どうした?」と聞く。 「りっ、りっちゃんがっ…!」 がくがくと震えて、涙で顔をぐしゃぐしゃにしたさよちゃんの背中を撫でてやる。 「うん、りつがどうした?」 「こ、怖い男の人達が現れて…。わたしの腕を掴んで、引っ張って行こうとして…。りっちゃんが男の人の手を噛んで逃げろって…っ」 「…それで?」 「一番大きい男の人が…こいつきれいな顔をしてると言って、りっちゃんを担いで山道を登って行っちゃったっ!うわーんっ」 さよちゃんは、俺に顔を押し当てて声を上げて泣き出した。 さよちゃんが一人で走って来たのを見た瞬間から、俺の心臓が激しく脈打ち、血の気が引いて手足の先が冷たくなった。なのに、( てのひら)に汗が滲み出てくる。 俺は固く拳を握りしめると、さよちゃんの肩に手を置いた。 「さよちゃん、りつは俺が必ず助けて連れ戻して来る。さよちゃんは、家の中に入って戸口に棒を立てかけるんだ。いいか?俺が戻って来るまで、誰が来ても開けたり返事をしたら駄目だ。少しだけ、我慢して待っててくれるか?」 「う、うん…、わかったっ。ゆきさん、お願いっ…、りっちゃんを助けてっ!」 「もちろんだ」 俺は、さよちゃんを家の中に連れて上がり(かまち)に座らせると、板間の部屋の隅の床板を一枚()がして刀を取り出した。 これは、父の形見の刀だ。 俺は人を斬ったことはないが、腕には自信がある。 俺が出た後に戸口に棒を立てかけるようにとさよちゃんに言って、俺は家を飛び出した。 ーーりつっ!無事でいろよ!必ず助けてやるからなっ!

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