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第15話

転がる勢いで山道を駆け下りて行くと、脇に逸れた獣道の奥から笛の音が聞こえてきた。 りつが持つ竹笛の音だ。 俺は一瞬足を止めて耳を澄ませ、肝を冷やす。 すぐに笛の音が止んで、野太い男達の声に混じって、微かにりつの声が聞こえた。 「りつっ!」 俺は、(はや)る気持ちのまま獣道を突き進む。 開けた場所に出ると、数人の男達の背中が見えた。 「貴様らっ!何をしているっ!」 怒鳴りながら突進して、男達を跳ね除ける。 「うわっ!なんだてめえっ!」 「殺されてぇのかっ!」 跳ね飛ばされた二人の男が、すぐに立ち上がり両側から俺の腕を掴んだ。 強い力で掴まれて顔を(ゆが)ませながら、俺は怒りと恐怖で身体を震わせる。 「りつっ!」 「やだっ!やめ…あっ、ゆきはるっ!」 目の前で、二人の男がりつの腕を押さえ、もう一人の特に身体の大きい男が、りつの上に覆い被さろうとしている。 「貴様っ!離れろっ!」 「さっきからうるせぇな。なんだおまえ?」 ゆっくりと身体を起こした大男の下で、着物がはだけ、真っ白な胸や腹が(あらわ)になったりつが、真っ青な顔でガタガタと震えていた。 俺は掴まれている両腕を力任せに振り解くと、怒りで我を失いそうになるのを、深く息を吸って落ち着かせながら、ゆらりと大男の前に進んだ。 「…貴様こそ、なんだ?その子に汚らしい手で触れるな。盗賊めらがっ!」 「ああ?なんだてめぇ、俺をバカにしたのか?…まあいい。後でなぶり殺しにしてやる。あのな、こいつは俺の獲物だ。俺が美味しくいただく間、そこで指でも(くわ)えて見てろ」 「…下衆が」 俺は左手に持っていた刀の柄を、カチャリと親指で押し上げる。 「あ?やんのか?」 「無論だ。貴様が、話してわかる頭を持ち合わせていないようなのでな。力でわからせるしかない」 「ああっ?穏便に済ませてやろうとしたのに調子に乗りやがってっ!仕方ねぇ。死なない程度に痛めつけて、てめぇも(なぐさ)みものにしてやるよっ!」 そう言うと、大男が立ち上がる。 りつを押さえ込んでいた二人の男も立ち上がり、一人が大男に刀を渡す。 最初に俺に跳ね飛ばされた二人の男達も俺の背後を囲み、俺は五人の男達に囲まれた。 「ゆ、ゆきはるっ」 「心配するな。すぐに済む」 「てめぇ、一人で俺達に勝てると思ってるのか?わははっ、バカな野郎だっ」 「頭、早く痛めつけて動けないようにしてやろうぜ。こいつ、綺麗な顔をしてやがるから、きっと高く売れますぜ」 「阿呆がっ。売る前にこいつも散々いたぶってやるんだよ。偉そうに吠えたこいつが泣く姿を早く見てぇ…」 「俺はそっちの子供の方がいいなあ。柔らかそうな肌をしてるし、なによりかわいい」 口々に話す男達の下卑た内容に、俺の頭に血が昇って倒れそうだった。 ーーこんなっ、下卑た奴らにりつを触らせてなるものかっ! 大男が一歩前に出て刀を振り上げた瞬間、俺は、刀を抜きざまに男の手を斬った。

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