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第4話
聡太|聡太《そうた》の服等を一式買って二人で一息ついてる時だった。
聡太のスマホに着信があったのは。
硬質なピリリリリという音が鳴った時、一度は無視した聡太だったが周囲の視線と杉石の無言のオーラに耐え兼ねて彼は離席した。
杉石には着信を無視する道理が分からなかった。
もし仕事関係だったらどうするのだ、直ぐに出なかった事で商談がおじゃんになる事もある現代において、着信の通知にはいの一番に気を使うべきだろうに。
杉石は聡太のことを未だよく知らないが、外でゆうゆうと話している聡太の姿を見ると何やら楽しげに話しているらしく顔が普段(といっても未だ一日しか知り合って経ってないが)見せない表情をしている事に興味が湧いた。
――余程仲がいい相手なんだろう、もしや彼女とか。
彼女が居ない方が可笑しいだろう、何せあれほどの美丈夫なのだ。
今もすれ違う女や見かけただけの女の子からキャーキャー言われているし、確定だろう。
もしかすると同棲していて、帰ってくんなとか言われいたのだろうか。
すると今日の行動全てが聡太に対してムダになってしまう事に気づいた杉石は両手を腕の前で組み、そこに額を乗せた。
そもそもあの美しい彼が、青年が杉石と暮らしたがることに違和感を覚えねばならなかっただろう。
だが、聡太が言うままに流されるのもありかと思ってしまった杉石にも非はある。
半ば捨て鉢になっていたのだ、分かりやすく好意を寄せてくる相手に惹かれるもの無理はない。
杉石は惹かれていく気持ちに蓋をして、心の奥隅に箱を作って押し込めるとなんでもない風に、戻ってきた彼を受け入れた。
「おう、戻ってきたな、まだ何か食うか? 」
「いや、大丈夫だ。琢磨|琢磨《たくま》さんはまだ何か食べるか? 」
聡太は首を振り、席につく。
持っていたスマホを尻ポケットに突っ込み、長い髪を耳に掛けるとメニューを杉石に見せる。
だが杉石はそれを断り、もう出るかと促した。
買うものは買っただろ、と言う杉石に聡太は頷くがどこかよそよそしさを感じていた。
今まであった多少なりの気安さが抜けている。
まるで会った時のようだと思うが何故なのか聡太には分からない。
彼は他人のことには無頓着で、自分が周りからどう見られているかも気にして生きてきてはなかった。
だからこそ杉石の気持ちの変化をいざ知りたくともエンパス能力を使用してない時は、こうゆう時どう接していいかが分からない。
ガイドとはいえ、昨日力を行使し過ぎたせいで身体に疲労感は溜まっていたし、そう人前でおいそれと使う能力でもない。
前を歩く杉石に付いていきながらも聡太は手をこまねいていた。
買った荷物を持つ手に力がこもるがどうしていいか分からない。
二人は言葉少なに杉石の家があるアパートに戻った。
「琢磨さん、あの「聡太、お前には帰る所がある。いつ出て行ってもいいからな」
杉石は聡太を見ずに話続ける、その肩を掴んで振り向かせようとするも聡太は何故そうしたいかが分からない。
掠めた指先は二人の離れた距離のようだ。
とりあえず持っていた買い物袋を下ろし、杉石は椅子に座り買ったビールを煽る。
「理由は聞かないが暫く住んでもいい。だけど、いつ出ていってもいい。猫を飼うようなもんだ、俺は気にしないからな」
杉石はそう言ってまたビールを煽る。
痛々しいその横顔を見つめ、掛けられた言葉自体はとても優しいのに、どこか杉石の本心ではないように聡太はには思えた。
投げやりな台詞だ。
どこまでもそこに杉石自身の事は入ってない。
この始まった生活をどう考えているか、聡太には分からなかった。
買ったものを置いた聡太がスリと近寄ると、優しく髪を撫でてはくれる。
だが、どこか心ここにあらずだった。
聡太が思わず抱きしめようとすると、スルリと躱されてしまう。
心を分かりたくて能力を使いたいが聡太もまた磨耗していた。
「琢磨さんにとってオレは猫なんだな、その方が都合がいいのか」
「まあな……一時、身を寄せられる場所を提供するだけだ、あとは聡太の好きにしていい 」
「そう言うな、なあ琢磨、席を外している間に何か合ったのか」
「さあな、俺は夕飯の時間まで寝る。その間は好きにしろ」
杉石がビールを一缶空けてからベッドに横になると、直ぐさま寝てしまった。
スピリット・アニマルが彼の横で丸くなり、杉石を守るように緩くしがみつく。
その姿に聡太は未だ自分が歓迎されてない、心を許しきって貰えてない気がして、思わず伸ばしかけていた手を引っ込めた。
聡太は杉石が目覚めるまでずっと彼の寝姿を見ていたのだった。
何も出来なくとも見ていたかった。
その行動がどの気持ちから来るのかを聡太はまだ知らない。
杉石が起きた時真っ先に驚いたことは聡太にマジマジと見つめられていたことだった。
「そ、聡太? 」
「ああ、起きたんだな。オレ何か作る。腹減っただろうし」
杉石が起きて壁掛け時計を見るともう十八時回っていて、スピリット・アニマルも消えていた。
「お前さんなんか作れるのか」
「毎日出前だと身体に悪いからな、簡単なものなら、まあ」
置いてもらう駄賃だと思えと聡太はキッチンに立つ。
在庫を確認していく姿を眺め、なら調理は聡太に任せたと言う。
だが、いざ聡太が作り始めるとソワソワしはじめたので杉石にも手伝ってもらうことにした。
野菜を洗いながら杉石が言う。
「いや、ここに誰かが立ってんのが久々過ぎてなー、柄にもなくソワソワして悪いな」
「……別に、暇なら手伝ってもらいたかったんで」
杉石の指に嵌った古びた薬指のリングを見て聡太はそつ無く答える。
その間にも手は淀みなく具材を切り分けていて、包丁が具材を切るトントンという音と杉石が野菜を洗うザアザアとした音が響く。
二人でやる共同作業は殊の外捗り、調理を進めていく。
野菜を炒め卵を割り、絡めてはフライパンを振る。
菜箸でちょいちょいとかき混ぜてご飯を加えて味付けすれば即席炒飯の出来上がりだ。
それを器に盛り、二人でテーブルを囲みスプーンで食べる。
杉石は一口食べるなり、美味いと口にした。
「久しぶりに他人の手料理食べた。聡太は料理も出来るんだな 」
「これは料理には入らないだろ、単なる炒飯だ」
「それでも俺にとっては料理なんだよ、立派な、な」
杉石が褒めるので聡太はもっと美味いやつを作ってやると心に決めた。
二人で食べていると炒飯は直ぐになくなる。
その時聡太には聞き慣れない音がどこからか聞こえてきた。
弾かれるように杉石が立ち上がると放り投げていた鞄に駆け寄り血相を変えて、鳴り続けるスマホを持ってベランダに出る。
ひたすらに頭を下げている杉石の姿を、最後の炒飯の一掬いを食べながら聡太は眺めていた。
不意に自分にかかってきた電話を思い出し、尻ポケットに収めたスマホを確かめてしまう。
暫く話していた杉石がベランダから戻ってくると、衝撃を受け、ふらついた足取りで席につく。
そして頭を抱えると深い深いため息を吐いた。
「どうしたんだ」
「……会社が、俺を訴えるって……」
震える唇から零れたのはその一言のみだ。
聡太は、そうきたかと託された書類の件をどうにか早くしなければと、依頼した相手をせっついてでもどうにかしてやろうと頭のやることリストに書き加えた。
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