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第70話:お願い
スピスピと寝息を立てながら、暖を求めてすり寄るとそのままギュッと引き寄せられ、薄っすらと意識が覚醒していく。
「・・・んん・・・。」
トクトクと規則正しい音に、ぐりぐりと頭をすりつけると「ふふっ」と頭上から、笑い声が聞こえる。
その声に、眼を開けるとボルテの胸元にべったりとくっついた状態でフィガロは居た。
「!!」
「フィー、おはよ。ぐっすり寝てたね。」
「ル、ルテ、おはよ・・・。」
ちゅっ、ちゅっとフィガロの額と鼻先にキスをし、ボルテはベットからでた。
「朝ごはん作るから、もう少し寝てていいよ。」
「・・・うん。ありがとう・・・。」
クンクン・・・。
きゅるる・・・。
「フィー、ご飯できたよ。」
「うん。」
少し大き目にカットされた野菜の入ったスープの中には、ホロホロになったお肉。
パンの上には、とけたチーズが乗せられ、スクランブルエッグが添えられていた。
温野菜のサラダ、フィガロの好きな焼き加減のお肉。
「うわっ・・・・凄い。」
「フィーの席はこっちね。」
「あ、ありがとう。」
ボルテの前に、座ると見慣れないカップを置かれる。
「?」
「はい。フィー用のカップ。」
中には、程よい温かさのミルク。
ワンポイントに書かれた黒猫に、フィガロの眼が丸くなる。
「あ、気づいた? それ、フィーにそっくりで可愛いよね。」
「・・・あ、ありがとう。」
ボルテもフィガロの前に座る。
「いただきます。」
「・・・いただきます?」
「あ・・、うん。転移者の記録に書いてあって、食事の前の挨拶だって。終わりは「ご馳走様」なんだって。」
「へぇ・・・。ボクの居たイースでは、そういうの無かったかも。」
「んー、全部の転移者がやってた訳じゃないみたいだし、どこか他の文化なのかもね。」
「へぇ・・・、ルテは勉強家なんだね。」
「・・・・そんな事無い・・・。」
「・・・ルテ?」
「フィー、ゴメンね。僕が、最初に幼魔獣じゃないって気が付ければ・・・。ずっと、獣化させててゴメンね。」
「ル、ルテ!?」
ボルテが頭を下げた。
銀色の髪が、サラリと揺れ耳はペショりとうなだれる。
確かに、フィガロはこのノーザに着たくて来たわけでは無い。
けれど、それがフィガロにとって、悪い事だったのかと言われると、フィガロは否定した。
「ルテ、あのね・・・ボクは、ルテに世話されて嫌じゃなかったんだ。」
「・・・フィー?」
サラサラの銀髪をフィガロの手が撫でる。フィガロの白い指を銀色の髪がすり抜けていく。
「・・・ルテが、あの時魔獣を倒してなかったら、ボクは魔獣に食べられてたかもしれない。もしかしたら、ルテに出会わないで幻影魔獣と・・・」
「・・・・。」
するりと頭から、ボルテの横顔にフィガロの掌が触れ、ボルテが顔を上げた。
その顔が、悲しみを堪えていた。
「・・・ルテ。やっとこうやって一緒にご飯食べれたね。」
「・・・そうだね。」
「ルテ、ボク・・・ネロウ兄さんと一緒に、サウザに行くよ。」
「・・・フィー・・・。」
グッと堪える様に、ボルテの眉間に皺がよる。
「・・・それでね、ルテ・・・。お願いがあるんだ・・・。」
フィガロは、ボルテの頬を撫でながら、まっすぐ見つめた。
いつの間にか、ホロホロと流れてきた涙をフィガロの指が拭った。
涙に濡れて、キラキラと輝くボルテのオッドアイからフィガロも眼が離せなかった。
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