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第69話:号泣。
ドンドンドン!!!!
激しく叩くドアの音に、うんざりしながらも開けると、そこには見たこともない形相で立っている友人の姿があった。
「・・・はぁ。 中入れよ。」
「ずまぁだい・・・。」
ズビズビッと鼻を啜りながら、部屋の中に入ってきたのはサウザから自分が連れてきた獣人だった。
ラフな恰好で出迎えたピンイは、そのまま部屋のテーブルに座った。
「・・・兄弟仲は悪くなかったんだろ?」
「ぁあ”、そうだ!! ネロウ兄ぃちゃん!兄ぃちゃんて・・・むがじぃわぁぁ・・・・ああああ。」
テーブルに突っ伏した状態で、ネロウは水溜まりを作りつつあった。
「茶でも飲んどけ。」
そういって、フェイが向かいに座るピンイとネロウに茶の入ったカップを置いた。
「・・・サンキュ。」
「ん。オレは、風呂入ってくる。」
フェイの尾にピンイの尾が擦り寄り、スッと離れていく。上裸のフェイの背中にはうっすらと爪痕が残っていたが、突っ伏した状態のネロウには見えていなかった。
「ずまぁんなぁぁ・・・、お前らの邪魔して・・・。」
「いいって、お前が来るのは解ってたし。」
「・・・そうか・・・。」
「で、どうしたんだ? 感動の兄弟の再会だったんだろ?」
「・・・。」
「わざわざ、昔の貸しまで持ち出して頼んで着たんだ。弟も再会を喜んだんじゃ・・・って・・・」
「・・・・・おごらぜだぁぁぁ・・・・。」
滝の様に両目から涙を流すネロウに、ピンイもいつもの軽口を付けずにカップの茶を飲む。
「・・・色々と・・・つい悪く言ってしまってな・・・・。」
「・・・それは・・・。」
「お前に、連絡を貰って来たら、フィガロはあいつに連れ去られた後で、原因不明の昏睡って聞かされたし・・・。それに、あの小僧がフィガロを面倒見てたって・・・・それも、獣化したままの姿で・・・とか・・・。そんなの・・・そんなのさぁぁ・・・・・。」
次から次へと溢れ出る涙をネロウは止めるつもりは無いのか、ひたすらフィガロとの思い出をピンイに語りつづけた。
途中、風呂から戻ったフェイが茶のお代わりを置いていったが、それすら飲み干しながらも永遠とネロウの話は続いた。
♦♦♦♦
狩猟猫型獣人のネロウは、家猫型のフィガロや、同じ狩猟型のピンイよりも体格は大きく、力も強かった。そのネロウに、ピンイは助けられた事があったのだ。
その時は、仕事だからと断られたが、今回その借りを返してほしいと、ネロウはピンイを訪ねてきたのだった。
「すまない。虫の良い話をしているのは重々承知の上だ。どうか、お前の力で弟のフィガロを見つけて貰えないだろうか? 頼む。」
「・・・別に、構いませんけど? これで、貸し借りは無しという事で良いですね。」
「!! 良いのか!!」
「・・・ええ、構いません。何より、こうやって煩わしい貸しが無くなるのはこちらとしても、喜ばしい・・・。って、なんだ?」
「いや・・・、つい。あの時のチビが、こんな立派に・・・って思うと、感慨深くてなぁ・・・。」
「!! オイっ! オレの方が年上だって、言ってんだろ!!」
「すまんすまん・・・、つい弟とも、重なって見えてな・・・。」
そういって、あの日一頻り泣いたネロウは帰って行った。
「・・・良いのか?安請け合いなんかして。」
「ああ。それに、ちょうど北に行く仕事が入ってんだ。」
「へぇ・・・。それはまた運の良いことで・・・。」
♦♦♦♦
ガンっ!!
「!?」
目の前で大泣きしていたネロウがいつの間にか寝てしまっていた。
「やっと、効いたか・・・・。」
「・・・フェイ。」
ネロウの手に握られてたカップを取り上げる。
「いい加減、切り上げれただろ?」
「・・・まぁ、これ込みの借りかな・・・と。」
「それでも、4巡目になるところだったぞ?」
「あれ・・・?そんなに?」
「・・・・・。」
寝てしまったネロウに掛布を掛けてやると、ピンイとフェイもその日は静かに寝たのだった。
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