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第9話
大輝は來が自暴自棄になり堕落していくのを見てられなかった。最初はそんなことをしても、と放っておいたのだが仕事の時でさえもなんだか覇気がなく、ただ仕事をこなしているだけのような冷たさを感じ取っていた。
それは一部の常連客から
「來くん、変わっちゃったね」
と言われ尚更意識してみると、來の状態の危険さを感じ取った。
「毎週土日、來に頼みたい仕事がある」
「えっ」
「少し多忙になるかもしれないが……地方アイドルのヘアメイクのヘルプに入って欲しいんだ」
「……まさかあの……清流なんたらってやつ」
大輝は頷いた。
大輝の同期の美容師が清流ガールズという地元のアイドルのヘアメイクを担当しているというのは來は聞いてはいた。
できるだけ來のセフレである李仁と近づかないよう、無理にでも仕事をさせようとする大輝。
來は土日も働くことになるのか、と思い考えこむが
「……はい、やってみます」
と答えたことに大輝はびっくりしたのとホッとしたのもある。
「もう少し若い女の子と接する回数増やしたくて。ただでさえ女性と上手く話せないのに……年上の方はリードしてくださる方多いけど若い子はそうはいかないし、そこで気持ちが通じ合わないと常連もつかないし……やってみます」
「そうだな、わかってるじゃないか」
「……ええ、なんとなく自覚はありましたから」
來は若い女性と接し慣れるため、とは答えたのも大輝からの期待を無碍にしたくないという気持ちもあったようだ。
「あ、あの……大輝さん」
「どした」
「……ついでといっちゃあれですが」
「おう」
「もっと出勤数増やしたいです。他の店の応援とか……今回のアイドルのヘアメイクだけじゃなくて……もっと仕事をください」
來は大輝をじっとみていた。ここで大輝がどうしたその心変わりは、と言いたいところだった。
それまでは普通に仕事をこなすだけだった。だがあまり向上心がなかった。也夜と会えなくなってもその調子であったのだが……。
そのおかげか疲労はとてつもなかったが也夜の喪失感は埋められた……とでも言わないと自分の腕を買ってくれ、なおかつ忙しい中自分の寝食の世話をしてくれた大輝には申し訳ないと思いながらも。
「わかった、來。ほんとうにいいのか」
美容師は経験、数をこなすことが一番である。大輝自身は貪欲で体が壊れるほど経験を積んでいた頃を思い出した。
「はい、お願いします……」
「うん、じゃあブースに戻るから」
來は頭を下げた。
大輝は個室ブースに戻る。そこには李仁がいた。
「……李仁、直接言わないの?」
「直接もうこの関係やめよう、と言うのも辛いわよ」
実は李仁と來の関係は自分ではもう元恋人である來を慰めることはできないと大輝が李仁と湊音の二人に吐露したことから始まったのだ。
最初は湊音が料理を作りに通っていたがまだ良くならず李仁とバトンタッチをしたのだが李仁の勝手な判断で荒療法で体の関係を持ったのだ。
「僕は……來と身体の関係になれとは言ってないからね。李仁が勝手に……」
「まぁ私もあそこまで來くんが性欲に溺れてしまうとは思わなかったわ。食べ物、酒、酷かったら薬に溺れていたかもね」
「……李仁!」
「冗談、冗談よ。あーあ、すっごく相性良かったけどー病んでる子をセックスするのも相当しんどい。うちのミナくんもだし。わたし病み専かしら」
大輝は李仁の髪の毛を揃えながら苦笑いする。
「昔と変わらない、その奔放さ……」
「そーかしら? 最初から仕事漬けよりかは良い治療法だったと思うわー」
と李仁は笑っていた。
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