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第10話

 地方アイドル、清流ガールズNeoたちの楽屋はまさに戦場だった。  アイドル、華やかでまだ若い子達の初々しいフレッシュなイメージは表舞台であって楽屋はコロンや香水、メイクの臭い、制汗剤の臭い。  でも若い女の子が多いとわかるような独特な匂いでもある。  美容室で働いている時も何人か掛け持ちというのはあったが、次から次へとセットやメイク、メイクの手直しをしなくてはいけない。  現存でフロントメンバーは5人だが研究生を含めると15人。その中でも研究生の入りたての子たちは自分でヘアメイクをしているが中盤から先輩たちのメインステージの補佐に回る。そしてライブを裾で見ながら中には踊る真似をこっそりしている子もいる。  前座にもまだ出られないのにメイクするのか、と思いつつも來はライブが終わるとメインの子だけでなく研究生の手直しもしてやってくれと言われてその通りする。  まだメイクに手慣れてない中高生の研究生たち。 「ありがとうございます……」  小さく声を出す研究生。 「いえいえ、これが仕事だから」 「自分じゃなかなかメイクできなくて」 「慣れだよ。本や最近はSNSで見ると動画も見れる。僕は毎週これからここにいるからわからなかったら聞いてね」  來がそう言って微笑むと彼女は真っ赤になって目を合わせなくなった。  そしてマネージャーに呼ばれ頭をペコっと下げてメイク室を出る。 「おいおい、まだウブな子に優しく声かけちゃダメだぞ」  と笑いながらいうのは専属メイクの新榮だった。  そんなつもりはなかったのだが、と來。たまに女性客が來に対して緊張してたり、好意を持たれたりすることは珍しくない。  自分が同性愛者ということを也夜との結婚で多くの人に知られてショックを受けた女性客もいた。 「研究生の子もメイクしてるけど……」 「顔見せだよ、ある意味。先輩たちの横で物販やチラシ配り、お見送り……自分の顔を売るためだよ」 「売る……」  その言葉に絶句する來。アイドルはやはり売り物……ということか、と。  彼の客には様々な業種の人が来るが水商売もザラではない。  だから話は嫌でも耳にするのだがあまり來には縁遠いことだと思っていた。  それに加え清流ガールズNeoに関しては先代の清流ガールズメンバーが未亡人、恋愛、不倫などのネガティヴイメージが強く、一度解体されて新体制になったものの数人ほど恋愛、犯罪、無断欠勤などの問題行動も度重なり一度は全国的に有名になったのだが今では当初の通り地域でひっそりと活動している。  色々問題があったが今残っている子達の努力なのだろう。  來は女性にはあまり興味もなく、アイドルも特に好きではないため疎い。  美容学校では女性が多い環境で慣れっこではあったが恋愛感情は男性にしか持てなかった。  來はこの仕事はとりあえずメイクやヘアセットをこなしていけば良いと毎週通い続けていた。  仕事を覚えるため、技術を上げるため、そして也夜を忘れるため……。  しかし数ヶ月後には……。 「川のせせらぎにー足を踊らせぇ」 「來くん、歌覚えるの早くない?」 「だって何回も裏で聞いてたら嫌でも覚えるって」 「嫌でもぉ?」 「ごめんごめん、好きだから覚えちゃう」 「あははっ!!! まじ來くん可愛いー」 「はははっ」  來は彼女たちの歌を覚えてメンバーたちの名前も知り、談笑するまでになっていた。  早いうちに同性愛者だと告白したところ、也夜の婚約者ということを何人か知っていたことに也夜の人気ぶりをここでも知ることになるとはと思いながらも彼女たちは気を遣って也夜のことは聞いてこず來と接してくれていたおかげもあってかすぐ現場に馴染んでいるようだ。 「來、何一回り若い子達に揶揄われて」  新榮に言われてそうですねぇ、と來。テキパキとあれやらこれやらと手を動かせばその仕事に集中でき、ステージや舞台袖で努力しているアイドルたちを見ていたら尚更気持ちは入っていく。  客足も上がっていき、あの時メイクがわからないと言っていた新人も自分でメイクを研究したり來にきいたりしたりしてうまくできるようになっていた。  どうやら彼女にファンが少しついたようだ。ファンがつけば客足も増えグッズも売れチケットも売れる。  そう思えば自分たちが彼女たちを綺麗に着飾ればまたファンが増える。  売りものという表現は嫌だった來だが、それは特に気にならなくなったし売れれば別の日に仕事で呼ばれることも増えて給料も増えた。体力は昔から自信があったから4、5時間くらい寝て休みはとことん寝てご飯をたくさん食べれば回復をしていた來。  今まで自分が深く接することのなかったアイドルたちと出会ったことで彼は変わっていった。

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