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第16話

 來はそれからちょこちょことリカの元に行くようになった。  ライバル店でもあってあまり良い目で見られるものではなかったがあくまでもリカの様子を見るため。  その店の店主や先輩のプライドもあるだろうからあくまでも見ているだけ。  たまに先輩がリカに教えるのだがなぜか來をチラチラ見ている。  來はすかさず横に来て 「こう、もう少し手首から動かして」  とつい前に出てしまった。リカは飲み込みが早かった。さすがたくさんの曲を歌って踊るアイドルである。 「來のおかげで試験も余裕で受かったよ」 「僕はほとんど見ていただけ、ちゃんと先輩や店長さんにもお礼言わないと」  來はいつしかリカを家まで送る、という役割をしていた。  なぜなら終わった後、リカ一人で別方向で帰っていたからだ。 「やめてよ、男の人と歩いてたらアレだし」 「ファンの人に見られるって? それよりも身の安全を最優先すべきだな。それに君の先輩たちも君が拒否してでも送っていくのが普通だよ」 「……だけどさぁ」  リカは距離を置きながら歩く。 「アイドルは踏み台と言ったのは誰? そりゃ今ついているファンの人の存在は大事だけどさ。彼氏と歩いているのを見られると、て気にしているなんて変な矛盾」 「……んっ」  過去の踏み台発言がこうも自分の重荷になるとはとリカは口をぐっと紡ぐ。 「ごめんごめん。まぁそうやって深く帽子被ったりサングラスかけたりしてカモフラージュしてるわけだし……僕も……って君ほど有名な人ではない。そもそも僕は同性愛者の方では有名だし」 「そうね、友人てことで」 「もしなんかそう言われたらそう言ってね」 「……」  リカは來をじっと見る。 「どしたの」 「同性愛者ってガチなんだ」 「そうだよ。異性とはお付き合いしたことがない」 「ふぅん、お付き合いしたことないけどセックスは?」  急なリカのセンシティブな発言にびっくりする。 「……したことはない。ダイレクトなことを言わないでよ」 「ふふふ、からかっただけよ」 「年下に揶揄われるのは辛い」  二人は笑い合いあっという間にリカの家の前に着いた。彼女は一人暮らし。実家は近くにあるらしいが同じマンションに清流ガールズNeoのメンバーが住んでおり、メインメンバーは一人または二人一緒に暮らし、研究生たちは数人で親元を離れて暮らすことがルールのようだ。  近くに事務所兼スタジオもあり便利だというもののレッスンにライブにバイトや学校もあるのに彼女たちは親元から離れて暮らすのか、と思うとアイドルも大変だと思うが大手の事務所ではないし一人暮らしのメンバーは部屋に男を連れていくことも可能である。  過去にOGのメンバーも男を入れていたとか、二人暮らしなのに一人が黙認して彼氏を泊まらせていたとか恋愛無法地帯のグループだったともいう。  それでトラブルも起きているのになんて緩いやり方なのか、來はそう思っていたが事務所的には彼女たちがアイドル活動を将来の夢の踏み台にしている子が多数いることを知っているのか恋愛に関しては厳しく取り締まっていないらしい。  自分たちの責任だと。もし何かあれば多額の負債を背負うこと、社会的にも厳しい目で見られることはたくさん言われているということは現場で聞いてはいた。 「ねぇ、來。時間ある?」 「ん、明日はゆっくりだから……」 「じゃあまだ歩こうよ」 「へ? てかもう夜遅いから」  リカは來の袖を掴んだ。 「歩こうよ」  必然的に上目遣いになるリカ。そう言われると、と來はわかったよと言って歩くことにした。自分も家に帰っても一人。  セフレも今はいないし今は独立のことで頭がいっぱいだ。  少しは息抜きはしたい、歩くことにするかと。どこまで……とりあえず自分の家だったらそう遠くないと歩いてみた。  その中でリカは清流ガールズNeoのメインメンバーたちの現状を來に語った。  噂だとは思っていたがツートップのメンバーが引退したいということ、しかし下の研究生たちが育たず運営からはあと一年二年待って欲しいと言われていることを。 「ツートップ抜けたらリカちゃんが一番上になるからファンも流れてきていいんじゃないの」 「ツートップいてこその清流だからさ。私みたいなツンとしたやつはあの二人の引き立て役でしかないの」 「自分でそんなこと言わないでよ」 「……事実なんだから」  確かにツートップの二人に比べれば彼女の人気は下の方かもしれないが少し前よりかは人には出ている。  だが本人にしてみればそれはわからないようである。 「多分あの二人抜けたらもう解体だろうね。だから私は焦ってる。他の子たちも……研究生たちはまだ学生が多いからこれから修正も聞くだろうけど20過ぎて仕事もまだ下っ端で上手くいかなくてツートップの二人みたいに将来共に歩む人がいるわけでもない……不安だよ」 「……アイドルを踏み台にしようとしてたツケかな」 「來、結構キツイこと言うね」 「君に散々言われてきたから……なんてね。僕も人のこと言えない。恋人と離れることになって人生全く考えてなくて今更独立……正直もう何が何だか」  もう目の前は來のマンションだ。 「ねぇ、來の部屋に行きたい」  リカはまた上目遣いで言った。

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