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第17話

 來は入れてもいいのかと思いながらも入れてしまった。女性が入るのはほぼ初めてでないだろうか。  也夜の事故で友人の女性が来たもののそれ以来だろう。 「広ーい。ここが也夜との」  と途中で言うのをやめたリカ。 「そうだね、也夜は結局ここで暮らすこともなかった」 「勿体無い。こんな広いところどうやって毎月払ってるの」  リカはまたしもズケズケと聞いてくるなと思いながらも答えた。 「たしかにね、一応也夜の家族に家賃半分払ってもらってるんだ」 「へー。でもいつ戻ってくるかわからないんでしょ。それに戻っても……」 「……そうなんだよ。引き払うこともできるんだけど」  來は定位置に物を置き、ソファーのものをどかしてリカに座らせた。  フカフカなソファーにリカはなんとも浮き沈みする。 「いいソファー……家具も新しいしおしゃれだし。也夜のセンスだよねこれ」 「一応二人で選んだんだけどね」 「……そうなんだー」  リカはキョロキョロと部屋中を見渡す。來はお茶をレンジで少し温めてリカに出した。 「ありがとう。ごめんね、部屋に入っちゃって」 「……最初からそうするつもりだったろ? リカちゃんは也夜のファンってこと知ってる。也夜のものは残念ながら無いから」  選んだ家具や食器はあるが也夜の荷物は全て家族に返した。今あるものは來の物だけである。 「だったら自分はなんで私を部屋に入れたの」 「その……んー、なんとなく」 「なんとなくって……來くんは同性愛者だしもし入るところ見られてもそうだって言えばいいかなとか思ってる」 「……はぁ、同性愛者の男性の家だったらいいと思ってるのか」 「うん」 「安易すぎる、まだ僕だったからよかった」 「……まぁね。來くん以外の同性愛者の男性の部屋にはもう出入りしません」 「そうしてよ」  來もリカの横に座ってお茶を飲む。 「こうして横に座って話すのは初めてだよね」 「いつも君が僕の前に座ってるからね」  リカは來の横顔をまじまじと見ている。その視線に気づいて來は笑う。 「そんなに見るなよ」 「也夜もだけど來も結構人気なんだよ」 「そうなの? 雲泥の差だよ……」 「自己評価低すぎる。絶対モテてたでしょ」 「モテたとしても僕は興味がないので」 「……そうなんだ。そんなに女性がだめなのね」 「ダメじゃ無いけど」 「じゃないんだ……」  リカはそう言うと來に近づいた。 「こら」 「……そういうとこは男なんだ」 「同性愛者だからと言って男には変わりはない。だから……」  來の言葉はリカの唇によって塞がれた。一度は離れたが來は彼女を引き寄せまたキスをした。  なんども。 「ね、だから僕以外の同性愛者の一人暮らしの部屋には絶対入っちゃダメだよ」 「うん。もう他の同性愛者の人の部屋には入らない」  と再びキスをし出す二人。  來は女性とキスをするのは初めてだった。いつもリカのヘアメイクをし、影からアイドルとして活躍している彼女のステージを見ていた。  そんな彼女を応援するファンたちを差し置いて抱き寄せてキスをして舌を交わす。  ファンたちは働き、お金稼いでそれをリカに投資をしているのに握手と少しの会話だけ、なのに……という葛藤もあったがそれよりも理性が抑えられない來。  もう也夜のことは今頭にない。リカという若い女性アイドルと絡み合う、体も心も止められない……が……。 「だめだ、やっぱ」  と來はリカから離れて口元を拭った。心臓は高まって息も上がっていた。 「えっ……」  リカは少し困った顔をした。來に寄り添おうとしたが來は再び離れた。 「ごめん、やっぱりだめだ。女の子は」  來の中にあったどうしても越えられないものがストッパーをかけたようだ。 「……いや、リカちゃんのことが嫌いってわけじゃない」 「……」  リカはじっと來を見ている。が、その後笑いだした。 「だよね、やっぱ。來くんはやっぱり女の人だめなんだね」 「……ごめん、ごめん」 「謝らなくていいよ。なんか少しホッとした……」 「何がホッとしたんだよ」 「男女の関係にならないフラットな関係」 「……めっちゃキスしたのに」   來は立ち上がってなんとも言えない複雑な気持ちになってしまった。 「まぁ確かにすごいキスだったわ。也夜ともそんな感じだったの?」 「……んっ」  そう言われて來は思い出した。初めて付き合った大輝にはなかった濃厚なキスを也夜で初めて経験した時のことを。  キスだけで身体が反応してしまいそのままセックスしたことを思い出した。  リカとのキスで一気に思い出してしまったと顔を赤らめ、頷いた。 「すごい、ドキドキしちゃった……でも初めてが來くんはちょっとだから」 「えっ」 「私たちはアイドルとスタッフ、そこまでの関係ってことで! あーよかった」 「……う、うん」 「シャワー借りていい?」 「どうぞ、よかったら泊まっていって」 「はーい」  ささっとリカはシャワーを浴びに行った。來はすごく鼓動が増している。  也夜と激しくキスした思い出が蘇る。身体が疼く。 「なんでまたっ!!」  ソファーにリカの温かみと香水の香りが残っている。  自分の体温が高まるのがわかる。  情熱的な也夜に何度も抱かれた時のこと……その愛に溺れ幸せだったあの日々を。 「さっぱりしたー! てかやっぱり広いよねーうちのアパートよりもいい」  リカはバスローブを勝手に着ていた。也夜とお揃いに買った物だがリカが着るとかなり大きい。 「勝手に着ちゃってごめん。大きいよねー」  手が袖から出てない。お化けのような手の振りをする。少し湿ったロングヘア、ほかほかと熱った肌。  メイクはメンズメイクをしている來の使っているメイク落としを使って落としたのだろう、それでも綺麗な肌、整った顔。 「來くんもお風呂入ってきてよ」  アイドルと、スタッフ……あくまでもその関係だ、と來はそうでいよう、と思っていたが……。 「リカちゃん……」 「來……く……」  來はリカをソファーに押し倒した。

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