15 / 15
アルクレートの幸せ
私が吸血鬼になったのは、随分と昔のことだ。もう薄れかかっている記憶だけれど、あの日は一人家の前で遊んでいたと思う。平和な日常でしかなかったのに、一瞬にして過ぎ去った。吸血鬼の始祖が気まぐれに現れ、私を吸血鬼にした。ただ一言、吸血鬼の始祖ファルク・ジエルは言った。
「君はとても美しい」
それは私の悪夢だ。
外を見ると星が輝いていた。見慣れた静かな部屋。誰もいない部屋。ふらりと立ち上がって部屋を出る。
「アルク様は?」
「無茶させるから寝込んでいるんです。反省してください! 特にアカ」
「私は悪くない」
「悪くないことないでしょう! あと知らん顔してますけどクロもですよ」
「てめぇの開発した首輪だろ」
「私の知らぬところで威力を最大にしたのは二人でしょう! シロもなんとか言ってください」
「えー、次は僕が血を吸ってもらう番だからね!」
「そういうことじゃ……」
一階が騒がしい。ああ、そうか。もう寂しい夜は終わったのか。
「あっ! アルク!」
「アルクレート、寝すぎだろ」
「父様、まだ眠っていなくて大丈夫なのか」
「アルク様、聞いてください。みんな年長者の私の説教は無視ですよ」
あの日、消えた声は今ここにある。
あの日、消えた想いは今ここにある。
あの日、消えた私の子らは今ここにある。
「アルク様、泣いてるの?」
みな驚いている。私も唐突に流れた涙に驚いた。震える唇。もう離さない。離したくない。たとえ、君たちが老いて死に果てたとしても、来世でまた迎えに行く。もう逃がさない。
「おかえり」
だからもう私の側を離れないで。
ともだちにシェアしよう!

