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第5話
「ん」
いつの間に用意していてくれたのか食事を終えると鎮痛剤を差し出された。
「あ、ありがとうございま...あ!」
「ん?」
頬杖をつき、不思議そうな丸い目が向けられた。
「や、昨日の居酒屋代。俺の立て替えてくれたんですよね?すみません、何から何まで、返します」
きょとん、とした後、孝介さんがケラケラと笑う。
「まあ、そう慌てなくていいから。まず鎮痛剤、飲みなよ」
「あ、はい、すみません」
「次からすみません禁止ね」
孝介さんが自身の口元に人差し指を当て、悪戯っ子のような笑顔が可愛かった。
...可愛い?
可愛い、てなんだ。
男だぞ、男。しかも、俺より年上の27で、イケメンだし、金持ってそうで、もしかしたらエリートかも。
女には絶対、困らなそうな...。
勝手に地雷を踏んだ。
元カノと別れたばっかだった。
だけど...。
「どした?」
何故か、手のひらに乗せた鎮痛剤の錠剤を凝視していた。
「あ、いえ」
ぐ、とミネラルウォーターで飲み込んだ。
元カノへの未練や親友への怒りがない。
もし、孝介さんと出逢わなければ、俺は今頃どうしていただろう...。
「にしても天気いいねえ」
孝介さんは口元に笑みを浮かべ、白の遮光カーテンが揺れ、爽やかな風と心地よい太陽の光が差し込んで来るのを眺めている。
「ですね。日曜日だってのにすみません」
「さっき禁止条約、作ったよ?」
「禁止条約、て」
思わず吹き出した。
「居酒屋のお代は構わないんだけどね、1つ頼んでもいいかな?無理ならいいんだ」
「頼み事、ですか」
「そう。実は、て程でもないんだけど。妹が勤めてる会社のバイトさんがね、辞めちゃったらしくて。祥吾、バイトやってるなら仕方ないから」
首を横に振った。
「してないです、今は。以前はやってた時期もありましたけど...なんの会社なんですか?妹さん」
「そっか、良かった!タウン情報誌のデザインや編集やってるよ」
「タウン情報誌...」
「バイトくんに頼みたいのはちょっとした雑用やアシスタント的なことらしいんだけどね」
「妹さんの話しになり、孝介さんの笑顔が増えた気します」
孝介さんは、
「バレた?」
と舌を出し、おどけて見せた。
「シスコンなの、俺」
やっぱり、可愛いと思うほかなかった俺には断る術はない。
妹さんとは歳が離れていて、23歳とのこと。
やっぱり孝介さんに似て美人なんだろうか。
...孝介さんに似て?
かあ、と顔が熱くなる。
男性にしては繊細な作りな顔立ちとはいえ...
男性にしては細い体型かもしれないが身長は俺よりも僅かながら高い
全くもって孝介さんは女っぽいという訳でもないってのに...。
....早く彼女、作ろう。
美由と別れて、女を切らしてるからおかしくなってるんだ、きっと。
目を覚ます為に自分で両頬を思いきり両手で挟みビンタしたら、孝介さんにドン引きされつつも
「ど、どうかした?」
心配された。
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