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数多重ねて一つの日 一*
ぎゅうぎゅうと抱き合った手はそのうち、体を撫でて擦るものへと変わった。背から腰へと落ち、脇腹を撫で上げる。身じろぎして竦んだスイの肩を捉え、クノギはそっと唇を重ねた。
軽く合わせ、抵抗がないので食んでみて。嫌がりはしないが動きの鈍いスイに一度離れて促す。
「口開けろ」
唇が薄く開くのを確かめてからもう一度。口づけて緩く舐め――腿のあたりに置かれた手に力が籠っても努めて開けられた口には堪えがたく、その内へと舌を差しこんだ。揺れた体をまた撫でながら、濡れた感触と体温を味わう。
「っふ、は……待っ……きもちい、」
スイは舌を絡ませて上顎をくすぐる他者の存在に息を乱し、顔を背けて請うが。噛みつくように口を覆われ、今度は簡単には逃がしてもらえなかった。
「んふ、ん――んんっ」
クノギにしてみればそこまで入念にしたつもりもなかったのだが。口の中を味わい尽くされた、とスイが思う頃やっと唇は離れ、息を整える間に服を開かれてしまう。露わになる薄い体に、クノギももどかしく己の着衣を緩めた。
布団へと引き倒された熱の入った体は敏感で、少し撫でて軽く扱かれるだけで陰茎は硬くなる。そこに、同様に張り詰めた物が押しつけられる。
「あ……」
脈打つ質量にスイの肌が粟立った。挿れられたときの感覚を思い出し、腹の底が疼き始める。いっそそのまま突っ込んでほしいとさえ思うが、覆い被さったクノギの手は尻ではなく、重ねた二人分の陰茎へと向かった。
手が動きだせばすぐに明瞭な快感に意識が持っていかれる。強く激しい掌の動きに、スイは悲鳴を上げそうな口を押さえて堪えた。
欲そのものの様相の股座と近くで火照った互いの顔と、どちらも昂らせるには最高の材料だった。まとめて扱き先端を揉む手にじわりと先走りが滲む。早く早くと逸る気持ちのまま、手は止まらない。
「スイ……スイ……っ」
「んっ……う」
比べて大きいクノギの一物が震えて勢いよく精を吐き出す。熱い息交じりに呼ばれる名に身震いして、クノギの体の震えと腹に散った熱を感じた瞬間、スイもびくんと身を弾ませた。手の下で唇を噛みしめ射精の快感をやり過ごす。
体を重ねたまま、柔くなり始める性器を掴んだまま、二人は少しの間息を整えた。
「……な、こっちも欲しい……」
スイの指が二人分の精液で汚れた腹に触れ、黒い毛並みへと撫で下ろす。それだけで体内は一層に疼いた。
頭が沸きそうなほどの興奮を抑えたクノギが頷き、油瓶を掴んで戻ってくる。それだけでまた期待して内臓が蠢くのも感じられた。
至極素直に開く足の間、油を纏った指がつぷりと埋められる。慣れたそこは刺激を求めて一本でさえ締めつけるが、いくら自身の指よりは太くてもこれでは足りないともどかしさに腰が揺れた。
「そのまま挿れてくれ」
「駄目だって。煽るな」
「ん――そこ、もっと……」
すぐに音を上げるスイを窘めるが、クノギも普段ほど丁寧にはいかなかった。油をたっぷりと使って奥まで塗り込め、指を増やして拡げながら掻き回す。常ならば性感帯を押してくれる指がそこを掠めるようにして動くので、スイは焦れて堪らない。
そんな状態ゆえに興奮が高まるのは早く、許容と限界を認めたクノギが陰茎を扱いて押しつける頃には息が荒い。指を抜かれてひくつく孔は、その昂りゆえにきつかった。
「ん。スイ、少し広げろ……うん、」
「っあ」
促すクノギの言葉に従って入りやすいよう息むと、ぬるりと亀頭が襞を押し広げる。ようやく求めていたところに当たる。前立腺を叩くその刺激を繰り返され、スイの陰茎もまた擡げ始めた。
大人しく体を開くスイは髪も解れ、一枚服を羽織るだけ。出した物もそのままべっとりと腹を汚している。乱れきった姿だ。ああ抱きしめたい、口づけてしまいたい、と幾度となく過ぎった思いを今日も過ぎらせて――我慢しなくてもよくなったのかと熱に浮く頭で気がついたクノギは、ほんの僅か緊張しながら、口元を押さえているスイの手をとって己の肩へと導いた。
意図を察して案外簡単に回された両腕に、クノギは深い満足を覚えた。青い目がこれでよいのかと窺うのも愛おしい。暫し見つめてから抱き寄せ同時に陰茎も押し込む。
「うあっ……っ!」
一息にすべてを捻じ込まれ、それだけで視界がちらついて軽く気をやるスイの唇に軽くキスをして、クノギは今度は大きく腰を使い始める。痙攣のように動く熱い粘膜は心地よい。
「あっ、あう、ん、や、……っあ」
抱きついていると口を塞げないスイの声は、揺すぶられて途切れ途切れになっても止まらない。雨音は遠く、自分の声と体の中を開かれる振動ばかりが響く状況に羞恥が煽られ、なおのこと興奮と快楽を呼ぶ。さっき以上の絶頂を知る体はもっと強くと願って淫らに腰を押しつけた。
求めていた質量が中を広げて満たすのは最高の快楽だった。性感帯を擦り押し潰して、理性を剥ぎ取っていく。
「っあく、あ――」
他の寄る辺なく縋る腕の重さと甘い声にクノギの意識も融ける。信じられないほど、おそらくはこれまでより気持ちがよかった。
絶頂に仰け反るスイの体を揺すり、クノギは何度目かの精液をその中へと注いだ。
「……時間がいくらあっても足りないな」
乱れた布団を直すのは面倒で、捲れ上がったのもそのままに横になってスイはぼやいた。その横にクノギもいた。スイの要望を叶えて、今日はこのまま眠る為に。
「まだしたいって話なら、薬房に相談しに行かないとならんかも知れん」
「そうは言ってない」
たっぷりしたいのは確かだが。触れ合って体を重ねて、心地良いまままた触れ合い、そして始末をして。そうするともう夜も大分深い。普段の生活では考えられないほど遅寝の時刻だった。
それでもまだ離れ難く今は寝台に並んで寝転んでいるのだから、という意味で発したスイの言葉の意味をクノギも取り違えてはいなかったが。同時に横にいる友人――恋人と呼んでもよくなった男の性欲の強さを思う。
自分の性欲や精力が薄いと思ったことは今までなかったクノギだが、スイを前にしては強いとは言えないのではと思い始めている。
「月何回がご希望だ?」
冗談で言ってみても、黙りこんで答えられないのが恐ろしい。月二回にして一人では何回しているのか、と聞きたくもあったが、今は止めておいた。
「合わせるから我慢は絶対するなよ。会うたびしたいのは俺も同じだし」
「ん……」
逆に言いきって肩を撫でる。緩く抱えるように腕を置くと、変わった距離を感じてじんとくる。スイも満更でもなさそうに照れて枕へと顔を擦りつけた。
幸福の中寄り添ってくる睡魔に先に目を閉じたのはクノギのほうだ。一日以上色々と悩んでいた気疲れが祟って、慣れない場所で横に結ばれた相手がいても深い眠りに落ちた。
そんな彼を眺めてスイのほうはもうしばらく起きていた。友人の寝ている顔を見るのは久しぶりだった。
ごく稀に、酒盛りが行き過ぎたり、遊んでいる最中に天気が悪くなったりして泊まることもあったが。それも一年にあるかないかだった。基本的に真面目な男なのだ。無論、そうしないと次に遊びにこれないというのもあるが。
瞬きが徐々に閉じてしまった目を開ける緩慢な動きに変わっていく。寄り添って、好いた相手の寝息を聞きながら微睡むのはよいものなのだなとしみじみ思いながら、スイも緩やかに眠りに落ちていった。
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