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数多重ねて一つの日 二*
スイは大体いつもと同じ時間に目覚めて、ばたばたと出ていくクノギを見送った。入れ違いに顔を出した使用人は相手がクノギだったのと昨夜の雨を覚えていたので驚きこそすれ何も疑わず、庭が滑りますので気をつけて! と気遣いを見せた。
書庫番の寝台は割合広く男二人で寝てもそれなりに寝返りが打てるが、やはり普段ない物が隣にあると体が遠慮する。多少固まった体を解すべくスイは伸びをして、朝食を準備するカナイの手際のよい物音を聞きながら顔を洗いに行き、普段どおりの一日を始めた。
あんなことがあっても普段どおりになるものだなあ、とすぐ昨日のことをどこか遠くに感じながら、多少の寝不足を跳ね除けて書庫へと向かい。仕事が終わってカナイとの茶を楽しんで、一息。朝のことを思い出す。慌てて出ていった人は大丈夫だろうかと二人で暢気な心配もする。
回想の時間は徐々に遡り、スイは夜のこともはっきりと思い出した。半分は快感に乱れていてあまり具体的ではないが、確かなことは一つある。
――すごく気持ちよかった……。
クノギとの行為はいつも大変よいものではあったが。昨日も何回も達したしとても満たされた。思い出すだけで体が熱くなってくる。
白状すれば思い出したのは茶の時間だけではない。普段どおり、の裏で仕事中も作業が一段落つくたびに昨夜のことを振り返っていた。お陰で今日はまるで集中できていない。気がそぞろでこの時間が待ち遠しかった。使用人が城のほうに出向いていて、書庫に自分以外は居なくなるお楽しみの時間が。
急いで腹の中を洗うのさえなんだか気持ちよく、準備をして寝台に上がる頃にはスイの体はすっかり発情しきっていた。横になり潤った窄まりを少し撫でてみるだけで快感が淡く込み上げてくる。昨日望みどおりに奥まで擦られた分、敏感になっているようだった。
ぐにぐにと上から揉んで弱い快感を楽しみ手に油を垂らすだけの間に、スイの性器は完全に上向いて先端からは先走りが滲みだした。クノギに触れられたことも思い出して、その水分を塗り広げるように鈴口を擦りながら後ろへと指を沈ませる。
慣れた手つきで指を曲げ、すぐに届く性感帯を撫でる。一気に強くなる快感にスイは意識せずに己の指を締めつけた。陰茎を握る指にとろりと吐き出されるものがある。
「んっ、あ……うそ……」
ここを弄れば射精に至るのは無論以前から知っていたが、それにしても早い。いつもは射精しないように程々に触れてから張り形を入れるのだ。今日は思った以上に興奮が強く、快感を拾いやすくもなっているようだった。
――全然、する気なかったのに。……これだけで達するなんて。
これだけ、では体はまるで満足していなかった。それどころか完全に火がついてしまった。
少量の精液を拭いさっさと張り形を掴む。油で濡らして大して解してもいない孔へと捻じ込むと案外難なく、昨夜も広げられた内壁は広がって陶器の一物を受け入れた。
僅かな出し入れで体は簡単に、再び熱り出した。
夜のことを思い出しながら深く動かし、今日ならもしかして気持ちいいのでは、と近頃の自慰の流れも汲んで、既に反応してつんと浮き出ている乳首を片方摘まんでみる。くすぐったさに身が引け、下腹が疼く感覚がいつもより強く、思わず張り形をきつく締めつけた。
感じる手応えに以前指南されたときの記憶も掘り起し、緩く縁を辿って掻いて弾いてみると身が竦んだ。むず痒さより先が見えたように思えた。
「ふ――あ、ん……んん……っ」
胸元の手は辿るように同じ動きを繰り返す。ぼうと欲に燻った目で股座ではなく小さな突起を見つめて、ようやく見えてきた快感を掴もうと胸を使った自慰に耽る。途中でもう片方の手も上がり、胸の両方を同じ動きで弄るようになる。
もどかしい気持ちよさにもぞもぞと足を擦り合わせ――張り形ではなくクノギなら動いてくれるのに。その想像で中の物を締めつけながら。
途中で耐えかねもっと強くと触れてみたが、むしろ抓った痛みに近い感覚で快感が逃げてしまう。違う、先程はもっと気持ちがよかったと繰り返すほどにそこはじんと痺れてきて分からなくなる。
「だめ、も……」
我慢できない。と観念して足の間へと手を戻し、挿れっぱなしの張り形を動かし始めると温まっていた体はあっけなく達して波打った。あまり動かさなかったが焦らしていた分か気持ちよく、いつもの充足感が体を包んだ。
そうして――目を閉じ荒い息を落ち着けて余韻を味わううち、スイは快感に類するものではない違和感に気づく。下腹部や尻ではなく、胸のほうだ。
「……いたい、か?」
改めて注視してみると、弄っていた乳首はどことなく赤みが増して腫れているように見えた。さすがに血や傷は見当たらないが感覚としては擦り剥けた感じで痛いような、熱を持っているような。
「……」
尻での自慰を始めた頃、快感を追って少々無茶をしてしばらく諸々つらかったときのことを思い出した。まさかここにきて同じ轍を踏むとはと一人で恥ずかしくなって顔に朱が上ってくる。
溜息を吐いて下半身の始末がてら、軟膏があったはず、と取りだして――自慰に似た手つきで塗るのも、塗った後の乳首がてらりと艶を帯びてむしろ最中よりもそれらしいのも恥ずかしい。今度からは気をつけようと固く誓った。気をつけようとは思ったが、もう止めようとは思わないあたりが、尻と同じで手遅れだ。
服を着ると擦れる感じがしてまたつらい。仕事に集中できない要因が増えてしまったと思えば情けない。
次はいつ会うだろういつ触れられるだろう、と先程までは思っていた友人にもこれはバレたくないので、今日明日ではなくちょっと時間が空くといいかなと思い始めた。
――クノギのことで考えることは、実は他にもあった。
彼は恋愛の意味でスイを好いていると言った。スイもそれに応じた。それでは今までと何が違うだろうか。つまり関係が恋人になったならどういう付き合い方が適切なのか。それをまたやけに真面目にスイは思案していた。
今までどおりとは言ったが多少変わりはあるだろう。抱擁もキスもスイは慣れていないし、ただ遊びに行くのとデートなどは違いがあるだろう。
そしてなにより。友人は何人いてもいいが、恋愛の相手というのは普通、一人であるべきだろう。スイは嘆息した。
「見合いなあ……」
しかしこのままではおそらく、父や兄は自分に縁談を用意してしまう。元々断るつもりではあったが、もし何度もとなると煩わしい。そもそも根本から絶つ方法はないものか。最初からその気はないとしておくのが無駄がなく、気遣ってくれている家族にも婚姻の相手を探しているだろう女性のほうにも礼を欠かないのではあるまいか。
誰かそういう相手として演技してくれる女性の当てでもあればよいのだが――否、それもまた別の問題が起きそうだ。
スイは考えて宙を見つめながら髪を綺麗に結い直し、上着を羽織った。
胸はなんだか痛いが体はようやくすっきりした。縁談の言い訳は追々考えるとして、次にクノギが来るまでに少しは勉強でもしておくかと、考え事調べ物の常として彼は再び書庫を目指した。
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