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第1話
どの宿でも屋上はバックパッカーのたまり場になっていた。
毎晩外に飲みに行くお金はないけど一人で部屋にいるのはばかばかしいし。
一人でやってきてるくせに寂しがり屋で、集まって話をするくせに帰国したらもう会わない関係は気楽でいい。
ホシザキジュンの話
泊まったのはロンリープラネットにあった、大通りを少し脇に入った30人ほどが泊まれる宿だった。
地球の歩き方よりロンプラが好きなのは、他の国からの旅行者が多い宿の情報が充実してること。読み物として充実しているところ。
同性愛者向けの情報だってある。
男と付き合ったことないし、一人で行く勇気はないけど。
日本を出る前は年中暑苦しいところかと思っていたこの国は案外涼しく、予想外に快適な旅になった。大学3年の冬休みだった。
この旅のために、中間試験の終わった秋からバイトを始めた。部屋から自転車で15分のレストラン・バーで毎週末閉店時間までシフトを入れていた。月10万円強、友達と遊ぶ金を除いても冬休みの旅行には十分足りる。
シングルの部屋に泊まりたかったけど、あいにく全部埋まっていた。ちょっと高いけど、シングルが空くまでツインに泊まろうかと思っていたら、同じように空部屋の確認をしている奴が話しかけてきた。
「Hey, do you mind if we share a room ‘til you’ll get a private room? (空が出るまでツインをシェアしないか?)」
背の高い、多分英語圏の男だ。目がとろんとしているところが少し気になるけど、やばそうな雰囲気はないし、部屋代も安くなるし、と考えて答えた。
「Sure(いいよ)」
毎晩いろんな人が屋上に集まっては、ギターを弾いたり、音楽を掛けて踊ったり、それを撮ってSNSに上げたりして騒いでいた。
長く滞在する人もいれば、一泊で別の宿に移ったり、次の場所に行く人もいた。基本的にみんな、情報を交換したり凄く仲良くしているけど、それはさようならを言うまでの間だけだって前提で動いている。
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